第83話 憤激の邪神

 二人が去った後、象の邪神ギリメカラとその派閥の幹部の三柱さんにんが音もなく姿を現す。

 一柱ひとりは空中に漂い、一柱ひとりは近くの大木の枝に逆さの状態で立っていた。そして、一柱ひとりは岩の上に胡坐をかいている。

 その全員が悪鬼のごとき形相をしており、その傍で跪く炎の精霊王イフリートと、土の精霊王タイタンがやはり、憤怒の表情で身を小刻みに震わせていた。


『我らが偉大なる御方おんかたの治める地に土足で踏み込んだ挙句、村を襲う算段か。ここまでコケにされたのはある意味初めてかもしれんな』


 背後に紅の円形の武器を背負う全身黒色ののっぺらぼうの存在が両腕を組みながら、怒りで震えた声を絞り出す。


『しかも、あんな木っ端ミジンコにです。皆さん、あれを許せますか?』


 空中に漂う真っ白の人型の存在が血走った両眼で他の者たちを見渡し、その意思を問う。


『否、絶対に否だ! あれらは許せはせぬッ!』


 椅子に胡坐をかいた八つの目を持つ上半身が素っ裸の男が大気を震わせんばかいの咆哮を上げる。


『至高の御方おんかた遊戯ゲーム最中さなか。我の結界内とはいえ、敵には悪軍大将もいるのだ。あまり、軽はずみな行動は慎め』


 諭すように告げたギリメカラの三つ目は真っ赤に染まり、上空に濃密な黒色のオーラが絶えず巻き上がっていた。主の今にも爆発寸前の様子に、イフリートとタイタンは大きく生唾を飲み込む。


『ギリメカラ、今の貴方が端からどう見えるのか教えて差し上げましょうか?』


 白色の人型の塊がどこか呆れたようにそう指摘する。

 ギリメカラは自身の全身を確認し、直ぐに大気を歪ませるほどのオーラを消すと、


『すまん。ついな……』


 頭を軽く下げて謝罪の言葉を口にする。


『確認だ。この地への侵入者を決して排除するべからず。それが、我らが至高の御方おんかた神言かむごとなのだな?』

『その通りだ。でなければ、あの未熟な天使の侵入など許すものか』


 ギリメカラが顎を引きそう断言する。


『我らが御方おんかた様は本気であの悪軍大将を使って遊戯を始めるおつもりなのか?』

『ああ、あの御方にとって悪軍大将も所詮、此度の試練のゲームの駒にすぎぬ』

『流石は我らが信じる神ッ! その思考も常識も我らごときでは到底、理解などできぬ』


 のっぺらぼうの存在の熱の入った言葉に、


『至極当然だ。だからこそ、我らはそのご指示通りに動く必要がある』


 ギリメカラは両手を腰にあてて補足説明をする。


『しかし、我らが御方に唾を吐いた行為はやはり許せぬ!』


 八つの目を持つ怪物が声を張り上げると、


『あくまで止められているのはこの遊戯の実施の間のみ。それ以降は何らご指示をいただいてはいない』

『ならば……』

『ああ、我らの好きにしてよいということだ』


 口角を耳元まで吊り上げて言い放つギリメカラに、


『ベルゼバブにだけは渡しませんよ。我ら悪邪の誇りにかけて、奴らに我らが永劫の苦痛と恐怖を与えてやりましょう!』


 白色の人型の塊が同意を求めると、


『もとより、そのつもりなり!』

『右に同じ!』


 八つの目を持つ怪物と、のっぺらぼうの存在は即座に返答する。

 ギリメカラは両腕を広げて天を仰ぐと、


『さあ、試練の開始だ! 我らも動くとしよう!』


 そんな最悪ともいえるゲーム開始の宣言をしたのだった。

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