第67話 最後の平凡な日常

 会議から三日が過ぎた。結局、ハンターギルドへの協力は求めないことで会議は決定した。

 決まってしまったものは仕方ない。どのみちハンターギルドの協力は魔物たちが受け入れることが絶対の条件となる。救いを求めるべき彼ら自身が否定するのだ。もはやこの方法はとれない。

 だから、数日間解決策を考え続けたが、当然のごとく良い方法など思い浮かばない。

 敵はあの四大魔王でも悪名高いあのアルデバランだ。このまま何の対策もせずにただ待つだけというのはかなり危険な気がする。早急に策を練らねばならない。

そんなことを考えながら、頬杖を突いて外の通りで魔物たちが行き交う様子を眺めていると、


「ギルッ! 今日はお祭りだよ!」


 扉が勢いよく開かれてシャルが部屋の中に飛び込んでくると、僕の首に抱き着き、そう叫ぶ。そういや、今日は新都市完成の式典が開かれる予定だったな。

 ルーさんと以前、一度完成の式典を開いて連帯意識の向上と閉塞感からの解放を図る必要があることを話し合っていた。今日はその式典の日だった。


「ありがとう、シャル、行こうか」


式典を開いた方がよいといった僕が真っ先に遅れたのでは示しがつかないしね。


「うんっ!」


 笑顔で頷きシャルはいつものように特等席の僕の右腕にしがみ付いてくる。



 部屋を出ると、様々な魔物の部族が広場へと向かっていく。少し前なら、人族の外見の僕やそれに近いシャルは頻繁に絡まれていたが、最近になるとそれも滅多になくなる。

 何せ、魔物の外見は多種多様。その部族の中には人と姿がほとんど変わらない部族もいる。当初は目立っていた僕の容姿も街中で頻繁に目にするようになり、大して珍しくもなくなる。そうして次第に僕はこの都市に上手い具合に溶け込んでいったんだ。まあ、それだけってわけじゃない――。


「ギル、シャル、ほら、お食べ! 特別サービスだよっ!」


 オーク族の肉屋のおばさんが投げてよこす二本のこんがりと焼いた串肉を受け取って、


「ありがとう!」


 礼を言ってその一本をシャルに渡す。このおばさんはブーの親戚であり、何かあるとこのように焼肉をくれたりする。


「美味しいねぇ」


 幸せそうな顔でモシャモシャしているシャルに頬を緩ませていると、


「ギルさん!」

 

 緑肌の少年が満面の笑みでこちらに両手を振っていた。少年の隣には数人の同じく緑肌の小鬼がいた。


「やあ、ゴブーザ、祭りの見物かい?」

「うんっ!」

「どう、楽しんでいる?_」

「それはもう! すごく楽しいよ!」


 それはこの祭りの主催者の一員としては本当に嬉しい限りだ。


「それは良かった。広場では催しもやっているから是非、参加して欲しい」


 他にも行きかう魔物たちからありがたい声を受けながら、僕らは式典が開かれる街の中央に位置する広場へと向かう。

 そこは丁度、キャット・ニャーがあった集落の前の大きな広場。その前には幾人かの魔物が既に僕を待ってくれていた。


「遅いぜ、ギル!」

「言い出しっぺのあんたが遅れてどうすんのよ!」


 チャトとターマが非難の声を上げて、


『おーい、ギル、俺たちは先に初めてんぞっ!』


 奥の建物の前のテーブルではブーが並々に注がれた木製のコップを高々と持ち上げて僕に叫ぶ。

 同じテーブルには一つ目の巨人サイクロンとワニ顔のクロコダスもカップを片手に座っていた。

 三者とも顔を真っ赤にしていることから鑑みるに、完璧に出来上がっている。

 当初はサイクロンもクロコダスも僕に対して壁を作り、極力関わりにならないようにしていたが、最近ではごくたまにだが話しかけてくるようになっている。


「まったく、式典の主催者側が勝手に初めているのでは示しがつかぬだろうが……」


 小言をいうハイオーガ族のオルゴに、キージは肩を竦めると、


「そういうな。最近では寝る間も惜しんで対策を考えていたからな。息抜きも必要というものだ」

「そうかもしれんが……なあ、ギル、お前はどう思う? やっぱり、示しがつかんとは思わんか?」


 渋顔でそんなどう答えてよいかわからぬ質問を振ってくるオルゴに、


「僕も遅れてきてしまったし、それをいわれると少しいたいかも」

「それはそうだよなぁ。全力で反省しろ! それより、さっそく始めようぜ!」


 チャトがそう提案するとキージは大きく頷き、彼は壇上に上がっていく。

 僕らも両手を叩いて皆の注目を促し、式典は開始される。


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