第51話 作戦の開始

 二者が衝突する度にバチバチと大気が破裂し、いくつもの竜巻が巻き上がる。湿地帯はいたるところが赤茶けた地肌が露出し、大規模なクレーター化している。

 まさに天変地異のような状況の中、


(冗談ではないのである! ガチのやりあいとは聞いていないのであるっ!)


 泣きそうな女性の悲鳴を最後に、竜巻を伴い、湿地帯の大地を蹂躙しながら二者は遠ざかっていく。


『ば、ばけもの……』


 尻もちをつきつつクロコダスはそう声を絞り出す。


「理解したかよ? お前、死の一歩手前だったんだぞ?」


 チャトが今も怯え切った表情で震えるクロコダスの右手首を掴んで立ち上がらせる。


『ま、まさか、その人間も?』


 クロコダスは僕を凝視して、そう問いかけてくる。その顔は先ほどと一転、濃厚な恐怖に染まっていた。まあ無理もない。そういう僕もルーさんがあそこまで非常識な存在だとは思いもしなかった。そして、この場にいる他の魔物たちも同じだと思う。

 というか、本格的にあの魔物ひとは何者なんだろうか? あの人の立ち位置が全くわからない。むしろ、他の四大魔王や幻獣王、魔物たちの王たる幻魔王とか言われた方がまだしっくりくる。


『ギルもあそこまでぶっとんではいないが、お前よりは強いさ。何せ俺に勝ったくらいだからな』

 

 ブーがどこか得意げに鼻を鳴らすと、他の魔物たちから騒めきが起こる。


『だが、これであの青の大竜はルー殿を欠いての討伐となる。それに……』


 サイクロンの苦虫を嚙み潰したような表情での言葉に、皆の顔が曇る。サイクロンの言いたいこともわかっている。ケトゥスはともかく、あの黒色の塊クラスが出てくれば、僕らだけでは対処ができない。それは間違いない事実だから。

 それでも――。


「やるしかないよ。どのみち、倒さなければ道はない」


 ルーさんがいないのは事実だ。でもだからって、ケトゥスが止まってくれるわけじゃない。確実にあと数日で奴はキャット・ニャーへ到達する。そうなれば、都市は滅ぶ。僕らは既にドンずまり。ケトゥスを倒すしか僕らが生き残る術がない。


『そうだな。ルー殿もそう言いたったのだろう。だが、人間、我は貴様を信用などしてはいない。妙な真似をしたら、問答無用で殺す。それでいいな?』


 射殺すような眼光を向けて尋ねてくるサイクロンに、


「ああ、それでいいよ」


 僕も頷き、


「作戦開始だっ!」


 キージの掛け声により、作戦は決行される。


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