第49話 一抹の不安

 キャット・ニャーの隅の丘で寝っ転がりながら、真っ青な天上を眺めつつ、ぼんやりと考えていた。

 わかっていた。僕が人で、彼らの中では異物ということは。むしろ、キージたちやチャト、ブーたちの態度の方が異常なのだ。だから、これは当然の結果。当然のはずなのだが……。


(そうか、僕はきっと寂しいんだ)


 彼らは魔物だ。長く人反目してきた魔族以上に人とは分かり合えないとずっと思われてきたものたち。信頼を築けると思う方がどうかしている。むしろ、クロコダスの言う通り、シャルたちの態度の方が本来異常なんだ。

 それはわかっていたが、その彼らに真の意味で信頼されないことが僕はこのとき、どうしょうもなく寂しかったんだと思う。


(この事件が落ち着いたら、ここを出よう)


 それは少し前からずっと考えていたこと。ここは魔物たちの楽土。何より、そうなるように僕は心の底から願っている。そのためには僕は明らかに不必要な不純物。それを取り除いて、初めてこの街は完成する。


「でも、なんか嫌だなぁ……」


 僕が呟いたとき、


「うむ、若いうちに悩むことはいいことだ」


 いつものどこか力強い声が鼓膜を震わせる。顔だけ向けると、犬顔の男、ルーさんが佇んでいた。


「ルーさん、会議は終わったんですか?」

「まあな。二日後、南下してくるトカゲの討伐作戦を決行することがさっき今決定した」

「そうですか。ルーさんたちなら奴の侵攻を防ぐことも可能でしょう」


 ルーさんがいれば、何ら問題はないだろう。何せこの魔物ひとの強さは底が見えない。しかも頭もキレる。今も南下を続けている巨大青竜ケトゥスであってもあっさり討伐してしまうような気さえしている。


「どうだろうな」


 意味ありげな台詞を吐くと、ルーさんは背中を向ける。


「ルーさん?」


 この人がこんなもったいぶった態度をとるのは始めただ。だから思わずその意図を聞き返してしまっていた。


「ギル、万が一私の行動が妨げられたときは、お前が以後の作戦を決行しろ」


ルーさんはこちらを振り向きもせず、一方的にそう指示出してきた。


「それはどういう――」

 

 そう言いかけたとき、ルーさんは軽く右手を挙げて去って行ってしまった。

 ルーさんの行動が妨げられる事態か。それは僕らの最高戦力がいなくなるということと同義。それはあまり考えたくはない可能性だ。

 でも、ルーさんは今まで不安を煽るようなことは決してしなかった。だとすると、少なくとも彼はそのような事が起こりうると判断しているということ。

だとすると――。


「そのときはその時。なんとかなるさ」


 押しつぶされそうになる強烈な不安を誤魔化すように、僕はできる限り力を込めてそう、呟いたのだった。


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