第39話 逃亡(1) コブーザ
泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていたのだろう。気が付くと牢の鉄格子の窓の奥には大きな月が覗いていた。そんな月明かりの中、金属の軋む音とともに、鉄格子がゆっくりと開いていく。
「あ、あれ?」
ゴブーザは小さな疑問の声を上げる。この鉄格子の鍵はゴブーザたちを押し込めたあの魔族どもが鍵をしていたはず。いや、そもそも鉄格子にあったはずの錠前が跡形もなくなっている。
(起きてッ!)
ゴブ-ザ同様、九死に一生を得た仲間たちの身体を揺らして起こす。
(扉が開いている?)
ゴブーザの幼馴染であるゴブミィがボソリと呟く。
(ああ、皆、早くここから逃げようっ!)
(そんなの無理に決まっているわッ!)
子声で泣きべそをかくゴブミィの頭を撫でて落ち着かせると、
(どのみち、オラたちは明日、食われる運命だ。それに餌のオラたちは明日までは殺されないよっ!)
皆をグルリと眺めまわして言い放つ。
今ゴブーザが生きているのはあの肉の怪物に限界が来たから。明日まではたとえ捕まっても殺されはしないはず。捕まれば痛めつけられるとは思うが、危険を冒す価値はある。
(ゴブーザ坊ちゃんの言う通りだ。俺も逃げるのに賛成だ)
年配のホブゴブリンの男性が大きく頷くと、立ち上がる。
(そうだな。ここにいても死ぬだけ。一か八か、逃げてみるか……)
筋肉質なホブゴブリンの青年も同意する。
薄暗い地下牢にいた全てのホブゴブリンがお互い肩を取り合って脱出を試みるべく、牢の扉をくぐる。
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