第38話 想定外の軌道修正
――ノースグランド中央部アルデバラン軍収容所 小鬼実験所
薄暗い建物内を蠢く複数の人の影。
「ん? 今何か通らなかったか?」
眠たそうな目で欠伸をしながら、見張りの魔族が建物の外に出て行くが、
「がっ!?」
黒色の影がその傍を過ぎ去ると白目をむいて地面に横たわる。
「おい、さぼんなよ! 俺が上からどやされるだろうが!+」
不機嫌そうにもう一人の見張りが顔を顰めながら建物の扉から出ようとすると、背後に現れた黒装束により腹部にワンパンされて一撃のもとに悶絶する。
音もなく現れる巨大な鼻の長い怪物と黒色のスーツを着た女に黒装束は踵そろえて敬礼すると、闇夜に走り抜けていく。
『まさかこれほど貧弱だとはな。ここのゴミども全て合わせても我らがケット・グィーの村民一人すら倒せぬ。オボロども朱鴉なら猶更よ。これは至高の
鼻の長い怪物ギリメカラが両腕を組みながら、濃厚な失望を漂わせながら隣の黒色スーツの女アスタに意見を求める。
「同感であるが、きっとこの程度がこの世界の強者なのである。ケット・グィーの住人たちもマスターと密接に関わってしまっている。つまり、この世界の
『かもしれんが、これでは進化したとてたかが知れている。到底、試練にはならんぞ?』
「そうであろうな」
『我らが至高の御方を落胆させるわけには絶対にいかぬ。何か手を考えねば……』
「それ以前に、この施設の惨状をマスターが現に目にすれば下手をすれば問答無用で
『承知している。だからこそ、我らが動く必要がある。何より、これ以上神民候補を減らされるわけにはいかぬのでな』
「もっともである。悪軍どもの意図はもう読めているのである。おそらく『反魂の神降し』でもするつもりであろう。だとすれば、これを仕組んでいるのは――」
アスタはそう呟くと口角をあり得ないほど吊り上げ、その顔を兇悪に歪ませる。まさに悪魔といっても差し支えない様相に、
『ああ、あのカスだぁ』
ギリメカラもニンマリと狂喜に染める。
「奴らの有する加護は『暴食の贄』。ならば、奴らの目論見は魔族どもを『
『我らの力で奴らの
「その通りである。どのみち、敵がいないのではお話にもならぬ。悪軍の幹部共を強制的にご招待願うとしよう。吾輩ならそれが可能である」
『よいいぞぉっ! よいぞぉ! そうでなくてはなぁッ! ソムニとテトルの仕上がりも上々ぉ!
この至高の御方が支配する世界にちょっかいを出してきた愚かな悪軍どもには、恥辱に塗れた上で滅ぼしてやるッ!」
「その悪軍の六大将の中にはお前のかつての主もいるようだが、いいのであるか?」
『支障ない! 我にとっての神は御方様、ただ御一柱のみ! たかが、ゴミカス風情など粗末なことよッ!』
血走った両眼で両腕を広げて天を仰ぐと大気を震わせる大声を張り上げる。
「まったく変わりすぎであるな。それで、マスターは本当にあれを実行に移すつもりであるか?」
アスタは肩を竦めると首を左右に振ってギリメカラに神妙な顔で尋ねる。
『ああ、御方様は自らゲームの舞台に上がる決断をなされたッ!』
「まあ、ゲームをただ傍観しているのは退屈であるし、マスターの性格からすればこれはごく自然の成り行きであるか……」
しみじみとそんな感想を述べるアスタに、ギリメカラは突然上空を見上げると、
『どうやら、制圧が終わったようだ。我らも神意に基づき行動に移すとしよう』
その姿を闇夜に溶け込ませる。
「さてさて、盤上を支配している最悪の怪物がゲーム内に紛れるか。まったくもって悪質極まりないである」
アスタも心の底からの感想を述べると大きな研究施設内へと歩き出す。
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