第9話 よそ者処遇談義

 木造の部屋の中に敷き詰められた青色の草。その上に、猫と人の中間のような容姿の男女が数人座していた。


「今すぐ殺すべきだ!」


 猫の頭部の金色の髪を短髪にした青年が興奮気味に席を立ちあがって声を張り上げる。


「じゃが、シャルム様はそれを強く拒否している。遠くない未来にこの地への魔族どもは侵攻してくる。あの結界の法具の発動と維持にはシャルム様の精神が大きく影響する。今この状況であの御方にへそを曲げられるわけにはいかぬよ」


 猫の頭部の老婆の諭すように語ると、


「くそっ! なんだってシャルムしかこの村の結界がかけらねぇんだよっ!」


 金髪の青年は青色の草の床を殴りつける。部屋の中に青色の草が舞い上がる中、


「私たちにとって今も侵攻してくる魔族も、絶滅させようとしてくる人族も同じ人間種。私たちの敵よ。いくらあの御方の願いでも人族と一緒の空気を吸うなど私は絶対にいや!」


 頭部が猫の赤髪の若い女性が噛みしめるように叫ぶと、


「そうですね。正直、僕は我が子を人質にでも取られたらと思うと気が気じゃない。この地を訪れた目的もはっきりしない以上、少なくとも野放しには絶対にできない」


 顎に触れながら黒髪の猫の頭部の青年は苦々しくそう呟く。


「本人曰く、自分が誰だかわからないらしいのぉ」

「そんなの嘘に決まってんだろ! 殺せねぇなら、さっさと追い出すべきだっ!」


 金色の髪を短髪にした猫の頭部の青年が、再度叫ぶが、


「あんた、馬鹿じゃないのっ⁉ 既にこの地に人間どもが入り込んでいるのよっ! 下手に開放してこの村の存在をその人間どもに知られでもしたら、魔族の侵攻の前にあっさり、滅ぶわっ!」


 赤髪の猫顔の女性に吐き捨てるように否定されてしまう。


「じゃあ、どうすればいい!?」

「そんなの私が知るわけないじゃないっ! その空っぽの頭を使って少しは自分で考えなさいよっ!」

「んだとっ!」

「何よ、やる気ぃ。私は別に構わないけどぉっ!」


 お互い険悪の表情で立ちあがっていがみ会う二人に、


「やめろ」


左頬に傷のある赤髪に猫の頭部を有する男の制止の声が飛ぶ。途端、ピタリと静まり返り、今までいがみ合っていた男女も大人しく席に着く。


「ことが終わるまで、その人間を地下牢に幽閉しておく」


 左頬に傷のある男の重々しいことばに、


「ですが、シャルム様がご納得しますかね?」

「我が娘には是が非でも納得してもらう。お前たちもそれでいいな?」


 グルリと眺め回すと、誰からも異論の声は上がらなかった。それほどこの男への信頼は厚くて強い。


「このまま防衛を強化しつつ、各自非常事態に備えるように」


 左頬に傷のある男の指示に頷き、会議は終了となる。


  

 誰もいなくなった部屋で頬に傷のある男は上を向いて、


「人間の来訪者か……もしあのデボア討伐の噂が真実なら――」


ぼそりと呟くが首を左右に振ると、


「人族とは組めぬ、交われぬ。それは過去から変わらぬ絶対不変の決まり事だ」


 そう自らの甘い考えを振り払うかのよう重々しく口にし、


「だが、あのひと以来、十数年ぶりの人間の来報なのも確か……それが吉とでるか、凶とでるか……」


 頬に傷のある男の口からでた小さな呟きは、外の強風による建物の震えにより、かき消えてしまった。



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