第8話 ちょっと変わった運命の出会い
鳥の鳴く声に瞼を開けるとそこは見知らぬ天井。やけにゴツゴツしたベッドか上半身を起こして周囲を観察すると、赤髪の少女が傍の椅子に座って眠っていた。
少女は長い赤色の髪を左右の中央でまとめ、左右の腰付近まで垂らしており、その頭部には獣の耳がチョコンと乗っている。
(獣人族? いや、違うな。あれは魔物か……)
獣人族は人種であり、ベースあくまで人。あの少女の頬には長いヒゲがあり、細い手足にはフサフサの赤色の獣毛でおおわれていた。あれは多分、シープキャットという魔物の種族だ。
ん? ちょっと待て――なぜ僕はそれを知っている?
丁度、その疑問に到達したとき頭部に生じる凄まじい激痛。
「ぐっ⁉」
頭の中を何か固いもので殴れた。それが一番この状態を説明するのに適しているだろう。
しばし、うずくまっていると、
「大丈夫?」
背後から背中を摩られ、振り向くと先ほどまでの寝ていた少女の顔が目地かに迫っていた。
「……」
少しの間、思考がフリーズしてその美しい顔を微動だにせずに眺めていると、たちまち少女の顔がよく熟れた果実のごとく赤く染まっていく。
「ご、ごめん!」
咄嗟に身を引くと背中ら壁に衝突し、前につんのめって少女の胸に飛び込んでしまう。
「……」
柔らかな感触とともに、今度こそ、声にならない悲鳴が上がり、横っ面を凄まじい力で殴られ僕の意識は再度ブラックアウトする。
「ぶってゴメン」
気が付いてから赤髪の少女は頭をペコリと下げてきた。
「いやあれはぶつというより、殴打するに近かったような……」
頭に思い浮かんだことを口にしてしまい、
「ゴメン」
益々、落ち込んでしまう赤髪の少女。
どうやら僕は元々、他者の気持ちに配慮するのが下手な性格をしているらしい。
そんな僕でもこの場を治める方法くらい知っている。
「なんで謝るんだ? 君が僕を助けてくれたんだろう? ありがとう、助かったよ」
そのつっかえながら紡いだ感謝の言葉は新鮮でどこか懐かしかった。
僕はこのとき、遥か昔に心の倉庫の奥深くにしまっていた箱の蓋を開けていたんだと思う。
そこにはたくさんの悪意と絶望が入っているけど、同時に僕にとって最も大切な宝物も確かにあったんだ。そして、それを知るのは丁度、皮肉にもこの日から半年後のあの日。僕が最も大切なものを得ると同時に、失ってしまった日だった。
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