第44話 それこそ愚問であるな

 ――【華の死都】前広場前のテント前


 【華の死都】の遥か遠方の最奥に立ち込める黒色の霧の壁。急遽、実技試験を中止して、生徒たちを塔へ避難させる。そして、副学院長派の職員をすべて締め出し、学長派であるイネアの部下とハンターギルドのラルフ・エクセルを始めとする数人のハンター、そしてローゼ王女の一行のみが広場前に残る。

 今、カイ・ハイネマンの配下を自称する片眼鏡の女性アスタが出現させた映像により、あの黒色の闇の中の光景を眺めていた。


「じ、次元が……違いすぎる!」


 調査部部長クロエが、滝のような汗を流しつつも、今この場で誰もが覚えていた感想を口にする。

 その映像はアンデッドの集団を完膚なきまでに破壊する集団。その戦争というにはあまりに一方的な光景は、まさに強さの桁が違う事が伺えた。


「アスタ、カイの配下ってあんなに強かったんですか?」


 ローゼ王女のいつにない感情の籠っていない疑問に、


「今更であるな。仮にも【神々の試煉ゴッズ・オーディール】が誇る最高戦力である。しかもマスターの御力で格段に力が増している。あんな下等な悪神クソ虫ごときなど遊び相手にすらならぬのである」


 やる気なく答える。アスタは当初、【華の死都】を警戒していたようだが直ぐにいつものやる気がない様相に戻ってしまう。


「ゴッズ・オーディール……カイがあの強さを得たことと関係あるのですか?」

「それは羽虫ごときが立ち入れる領分を超えている。知らぬが仏というものである」


 意味不明な例え文句を言うと、口を真一文字に結ぶ。大方話過ぎたという事なのだと思う。

 そのとき遥か遠方の黒色の霧の壁を突き抜けて一直線にこちらに高速で向かってくる飛翔体。それらはテントの横に着弾して地響きを上げる。立ち込める爆風の中、飛翔体の落下地点を振り向くと、巨大なクレーターが発生していた。そして、その中心にあるのはぐちゃぐちゃに潰れた腐敗竜の頭部。

 さらに瞬きをしたとき、クレーターの中心の竜の傍には背後に紅の円形の武器を背負う全身黒色ののっぺらぼうの存在が佇んでいた。


『これは失敬』


 のっぺらぼうの存在はアスタに軽く一礼する。そして、そのクレーターの中心の腐敗した竜の頭部に近づくと、その頭部はフワフワと浮遊する。次の瞬間、黒色の光の帯となって黒色の霧壁の内へ帰っていく。


「あーあ、ギリメカラ派の最高幹部まで動員されてんのか。どこのどいつだか知らんがマジで終わったな」


 ザックがしみじみと感想を述べると、


「この件であの悪質な一派が裏方から表舞台へと上がったのである。そろそろ、本件のシナリオもクライマックスってところなのであろうな」


 アスタも頷きながらも意味ありげな台詞を口にする。


「一つ聞かせてください。カイは彼らより強いんですか?」


 ローゼ王女のこの疑問に、アスタはしばし形の良い両眼をパチクリとさせていたが、


「それこそ愚問であるな」


 アスタは意地の悪い笑みを浮かべつつもただそう答えたのだった。

 

       

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る