第43話 鼠狩り


 大地に立つのは全身に呪符を張り付けている小柄な女性。


『ヒィィッーー!』


 その女性から大地を抉りながら必死に遠ざかろうとする腐王配下のカメにも似た巨大な生物。

 小柄な女性は無造作に右の掌を向ける。

途端、腐敗した亀の全身が硬直化して浮き上がる。呪符を張り付けた女性はその右手を握る仕草をすると、生理的嫌悪のする音とともに腐敗した大亀は何か巨大な手で押しつぶされているかのように球体の肉片となり、肉の球体となり地面に落下してしまう。

 


 白髪の少女に殺されたデッカデカの配下の巨人たちは、逃げ切れぬと知ると決死の覚悟で戦いを挑む。


『死ねぇ!』

『化物めがっ!』 


 腐敗した大型の鎧姿の数体の巨人は地響きを上げつつ眼前の背中に朱色の翼を生やした赤髪の青年の脳天に鉄の金棒を叩きつける。

 青年はそれを避けもせず、あえて頭頂部で受け止める。

 青年の背丈は二メートル前後にすぎない。まさに、己の数十倍の背丈のあるものからの金棒でのブチかましだ。通常ならば、大地に飛び散るのは青年の脳漿であったはず。

しかし――。


『ッ!』


 鉄の金棒は飴細工のごとくドロドロに溶解してしまう。


『そ、そんなッ! 腐王様に頂いた魔法武器が溶けた!?』


 声を荒げる腐敗の巨人に、赤髪の青年はさも不快そうに眉を顰めると、


『ハッ! ノルンにさえも効果がなかった、一介の悪神ごときの武器がこのフェニックスに効くはずがあるまい』


 そう吐き捨てるように叫ぶ。

 彼はフェニックス。討伐図鑑に登録されてから人型でも行動が可能となった不死の神鳥である。

 指をパチンと鳴らすと天から生じた紅の炎の柱が、巨人たちの骨、肉片一つ残さず灰と化す。


『この程度の自力でかの恐ろしい御方おんかた様を激怒させたのか。過去の私を見ているようで滑稽すぎて笑えてくるな』

 

 自嘲気味にそう呟くとその身体を浮き上がらせて、空を滑空し敵勢力の本格的な殲滅を開始した。



 最強種であるはずの巨大な腐敗竜が数匹奇声を上げながら、一目散に逃げ惑う。黄金の七頭竜の一つの頭部の双眼が光ると、黄金の雷が天から落下し瞬時に細胞一つ残さず蒸発させる。

 さらにもう一つの頭部が大口を開けて業炎を吐き出す。一瞬で辺り一帯が灰燼と化す。


『ゴラァ、ラドーンッ! 俺達まで巻き込む気カッ!?』

『さっきの一撃で周辺の敵のほとんどが吹き飛んじゃったわよッ! 御方様に褒めてもらえなかったらどうしてくれるのっ!』


 戦場の至る所から猛烈な批難の声が飛び交う中、それを意にも返さずまるで不沈空母のごとく、巨大な黄金の七頭竜は悠然と歩み、敵勢力の一切を蹂躙する。



 そして――竜神派閥と双璧を成す最大派閥。

 のっぺらぼうの存在が地上に浮遊しつつ背中に背負う紅の輪を外すとアンデッドに向けて投擲する。紅の輪は高速で回転しながら、逃げ惑うアンデッドの首を次々に跳ねていく。紅の輪により切断された胴体は、ドロドロの真っ赤な人型の液体となり、次の獲物を求めてアンデッドどもに襲い掛かる。残された頭部は、のっぺらぼうの存在の周囲に漂い滅びる事すら許されない。


 決死の形相で迫りくる複数のアンデッドの群衆。上半身が素っ裸の八つ目の青年は、肩を竦めると、無造作に右腕を振る。

 その爪により大蛇のアンデッドは三枚に卸されてバラバラの肉片となり崩れ落ちる。同時にその肉片がボコボコと盛り上がり、爆発を起こす。

 その爆発に巻き込まれ、アンデッド共も燃やされ粉々の肉片となり果てしまう。


『ぎひっ!』


 脱兎のごとく逃げる巨大な猿に似た幻獣のアンデッドの背中に八つ目の青年は右の掌を向けると、突然硬直し、ボコボコと肌が茹で上がり、大爆発を起こす。

 八つ目の青年は口角を吊り上げて、次の獲物を探して戦場を歩き出す。


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