第25話 不協和音 ソムニ

 三人の女性の受験生と合流後も、ソムニたちのチームのアンデッド退治は恐ろしいほど順調に進む。

 ソムニの実力からいって、アンデッドが弱すぎた。当初遭遇した人型ゾンビなどまだ強かった方だ。動く白骨スケルトンは挙動が遅く、剣で易々と粉砕できる。漂う火の玉、怪火など武器ではもちろん、多分、受験生の拳や蹴りでも粉砕できると思われる。


(ま、こんなものだよな)


 これはあくまでこのバベルへの入学試験にすぎない。世界中の武術家たちが集った神聖武道会や王国騎士学院の内部試合ではない。

 最難関と噂されるバベルの入学試験ということで、かなり身構えていたが、しょせん学生のお遊び。大したことがない。これなら目をつぶっていても勝利を勝ち取れる。

 アンデッドの中では比較的強者のゾンビの頭部を一刀の元に切り伏せると、


「ソムニ様、マジでカッコいいですっ!」

「その滑らかな剣筋、素敵ですっ!」

「後でサインしてください!」


 少女たちが頬を赤らめながらソムニの傍まで駆け寄り、今まで散々耳にした賛美の台詞を口にする。


「ああ、もちろん構わないよ」


 白い歯を見せて笑みを浮かべると、一斉に三人から黄色い声が上がる。

これだ。これが通常の反応。やっぱり、ライラのような態度が例外なんだ。

 どこかそんな安堵感を覚えていたとき、


「あなた、その右手にあるものを出しなさいっ!」


 ライラが赤髪ショートの少女に近づくと後ろに回していた彼女の右手を掴むと捩じり上げる。


「痛いっ! 何すんのよっ!」


 赤髪ショートの少女の右手から落ちる金色のバッヂ。それをライラはソムニまで蹴ってくる。そのバッヂを拾ってみると、


「これって僕のバッヂだ」


 ソムニのバッヂをなぜ彼女が持っている?


「ち、違うの! ほら、ソムニ様がさっき落としたのを見て拾っただけなの!」


 ライラを振り払い、ソムニにしがみ付くと涙目で声を震わせる。


「いや、しかし……」


 混乱し言い淀むソムニに、


「ソムニさーん。素人の彼女が達人級のソムニさんから、気付かれずに盗めるわけないでしょ。彼女の言う通り、拾ったんですよ」


 エッグがすかさず、そう赤髪の少女を庇う発言をする。

 だが確かに冷静に考えれば、エッグの言う事も一理ある。彼女はどうみても素人にしか見えない。そんな彼女が、ソムニからバッヂを奪うなど不可能。ならば、本当に拾ってもらったんだと思う。


「ありがとう。感謝する」


 バッヂをポケットにしまうと、赤髪の少女に頭を深く下げる。


「いいよ! いいよ! それよりも、人を泥棒扱いしてくれたあの女、どうにかして欲しいんだけど!」

「マジでありえねぇわ!」

「最低ぇ、死んじゃえ!」


 次々に口汚く罵る少女たちとソムニたちのやり取りをライラは眺めていたが、心底呆れたように首を左右に振ると、再度注意深く周囲を観察し始める。今まで一度も向けられたことがない憐れむのような彼女の瞳にどうしょうもなくイラついて、


「疑ったのは君のミスだ。だから彼女に謝りたまえ!」


 声を張り上げていた。第一、他人を盗人扱いして謝罪の一つもないとは、礼儀がなっていない女だ。まったく、どんな育ち方をしたんだ! 


わたくしはただ真実を指摘し、実行しただけですわ。なんら間違ったことはしておりませんので、謝罪をするつもりはありません」


 彼女はソムニに視線すら向けずにそうそっけなく言い放つ。

 

「君は――」


 あまりに身勝手な台詞に腹の底から怒りが込み上げて来て、声を荒げて叫ぼうとするが、


「まあまあ、ソムニさんも、あんな無礼な女に関わらない方がいいですって。どうせ言ってもわかりゃあしないしぃ」


 エッグがソムニの右肩を掴んでその言葉を制する。


「そうだな」


 そう吐き捨てると頭に上った血を下げるべく、エッグと三人の少女たちとの会話に交じり始めた。


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