第8話 神聖武道会第一次予選 

 大会登録の二日後、大会の第一次予選が始まった。

 第一次予選は、A~G組をさらに10個に分けて、100人程度のまとまりにする。そして、その中で、右腕に巻き付けた赤色の腕章を三人分奪い取った者が、第一次予選通過となる。こんなシンプルなもの。

 ゴングが鳴る。私は動かず、暫し動向を見守っていたが、それはある意味、私を驚愕させるに足りるものだった。

 威勢よく掛け声だけを上げて動かないもの、珍妙な奇声を上げて木刀をやたらめったら振り回すもの、魔法をひたすらブチかますもの、もはや無茶苦茶だった。


「ここは、初等部の初めてのお披露目会かね」


 形容しがたい光景を、なんとか口にしてはみたが、どうにも上手い表現だとは思わない。正直、初等部でも、もっと真面じゃないだろうか。


「いたぞ!」


 私を取り囲む3人の少年少女。私一人なら組みやすい、との判断なんだろうが、まだ動いていない私の持つ腕章は一つ。三人で囲む意味があるか? しかも、奴らの認識からすると、私は無能な最弱者なのだろう? こいつら、どこまで臆病なのだ。


「もう、逃げられねぇぜ?」


 セミロングにした少年が私に木刀の剣先を向けてくる。

 構えも無茶苦茶だし、重心の置き方もなっちゃいない。まさに素人同然だ。この者達ってこんなに未熟だったっけ?

 確かに、体感として十万年前の事実なのだ。それは誤謬もあるだろうよ。

 ともかく、未熟な童に剣を向ける気にもならん。この退屈なお遊戯は、とっとと終わらせるに限る。


「私からいくわ!」

「ざけんな、俺からだ!」


 対戦相手の前で滑稽にも言い争う三人にゆっくりと近づく。


「なっ!?」


 奴らの目と鼻の先で両方の掌を叩き、その隙に三人の腕にある赤色の腕章を奪い取り、円武台から場外へ出る。


「あ、あの無能野郎、棄権しやがった!」

「卑怯だぞっ!」

「そうよ、敵前逃亡とは、なんて恥知らずな奴っ!」


 既に己が敗北したことにも気付かない滑稽な道化を無視し、私は会場の隅のテントにいる係員に、三枚の腕章を渡すと、


「6032番のカイ・ハイネマンだ。これでクリアだろ?」


 自身の勝利につき尋ねる。


「……」


 係員は私と会場を相互に見て目を白黒させていたが、


「合格だ」


 直ぐに名簿に記入をし始める。

 さて、終わったことだし、さっさとローゼたちの元へ戻るとしよう。


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