第13話 新魔法と遠距離攻撃手段の開発


――ゲーム開始から8167年後


 魔力とは人間の肝付近にある丹田の中に蓄えられている高質力のエネルギー体。その貯蔵庫である丹田から魔力を引き出し、操作する。当初は、出すだけで精一杯だったが、100年もすれば、それを自在に操れるようになり、私を中心に数十メートル先にいきわたらせることも、空中で魔力の絵をかくこともできるようになる。残りは、応用だ。実際にいかに効率よく魔法として昇華するか。

 私は魔導書を参考に新魔法の開発に没頭する。結果、4つの魔法を編み出した。

一つは、身体強化系魔法、【金剛力】――細胞一つ一つに魔力を浸み込ませて、その魔力を強化の効果に変質させる。

 二つ目、回復系の魔法、【超再生パナケイア】――同じく細胞レベルで修復を可能とする魔法。これは医学書の知識を得て可能となった魔法だ。

 三つめ、武器強化系魔法、【魔装】――その名の通り武器の分子レベルまで細かな魔力操作を可能した魔法。この分子は、化学系の書物を読み漁って思いついた魔法だ。

 四つ目、探索系魔法、【神眼】――半径500メートルの範囲でドーム状の魔力の範囲を及ぼし監視する魔法。

 これらの魔法は私が命名したのではなく、訓練していたら魔法という項目が増えており、ここにリスト化されていたのだ。

 さて、これで土台は完成した。あとは具体的遠距離攻撃手段の開発と応用だ。

弓、いや、私の武器はあくまでこの剣。それ以外はあり得ぬ。ならばやはり――。

 私は右手に石を持ち、それらを投げ始めた。


――ゲーム開始から約1万1065年後


 さらに長い年月が流れた。

 あれから、投擲を繰り返すことでスキル、【戒流投擲術初伝】を得る。それから、中伝、奥伝、皆伝を経て遂に、【戒流投擲術極伝】へと至る。これは投げることについての能力であり、私が投擲するもの全てを対象とする。これはもちろん、魔力についても同じ。今や魔力に刃という性質を変質させ放つことも可能となっている。これもち密な魔力操作とその変質に500年もの年月をかけたお陰だ。

 もちろん、私は剣士だ。この投擲術のままでは戦闘では使えないし、使う気もない。ゆえに、この【戒流投擲術極伝】を剣術に取り入れることをひたすら試行する。

 そして遂に【戒流投擲術極伝】は、【真戒流剣術】として統合され完成をみる。

 現在、私の有する剣技の型は、【死線】、【電光石火】、【月鏡】にさらに三つ増えて六つとなっている。

 それから、ときの経過により魔物が再充填されるというダンジョンの特性を利用し、ダンジョン300階層から349階のドラゴン共を殺しまくる。そして先日、【竜殺し】の称号を得た。

称号とはある事象を極めたことにより獲得する概念らしく、対竜戦に関しステータスが極地となるというもの。奴を殺すにはもってこいだろう。

 ともあれ、私のステータスは次のようになっている。


―――――――――――――――――――――

★ステータス

【名 前】 カイ・ハイネマン

 【年 齢】 15歳(年齢進行停止中)

 【ギフト】 この世で一番の無能(神級)

 【HP】  9000

 【MP】  8000

 【力】   3214

 【耐久力】 2955

 【俊敏性】 3428

 【魔力】  3699

 【耐魔力】 3026

 【運勢】  1020

 ★保有スキル:【無限収納道具箱アイテムボックス】、【特殊鑑定】、【真戒流剣術かいりゅうけんじゅつ一刀流】、【猛毒同化】、【熱同化】、【氷同化】、【土砂同化】、【風同化】、【水同化】、【雷同化】、【魔導中毒無効】。

 ★称号:【竜殺し】

 ★魔法:【金剛力】、【超再生パナケイア】、【魔装】、【神眼】

  ―――――――――――――――――――――


 ステータス上は依然として奴の方が上の可能性が高い。しかも、奴の【物理無効】という反則的な効果にどこまで対抗できるかは未知数。人事は尽くした。あとは天命を待つのみよ!

 349階の転移陣へと転移し、私は下の階段を下っていく。

 依然と同様、黄金のドラゴンは横たわったままの状態で私を鋭く睨んでくる。

 私は【雷切】を鞘から抜くと、とびっきりの興奮を全力で抑えつけつつも、重心を低くし奴をねめつける。


『中断されていた第8試練、黄金竜ファフニールを倒せ、が再開されます』


 再度流れる無機質な女の声が頭内に響く。

 うんうん! たまらぬなぁ! それもそうか。これはいわば3500年越しの恋。恋焦がれ過ぎて、狂い死にしそうだったしなぁ。さあ、早く殺し合いをしよう。

【雷切】に魔力を纏わせてそこに、【魔装】を載せて威力を著しく増強。さらに、【金剛力】により、身体能力を高める。まずは挨拶も兼ねた無骨だが渾身の一撃だ。

魔力を自在に操れる今の私なら【雷切】の性能を余すところなく、引き出すことができる。

 私は奴の直ぐ頭上を狙って【雷切】を振り切る。

【雷切】から雷の雄叫びが放たれ、黄金の電流一色に世界は染まる。刹那、押し寄せる熱波と衝撃波と耳を弄するような轟音。

 竜の背後の壁は原型すら留めぬほど大きく抉られ、マグマのごとくドロドロに大きく溶解していた。

ファフニールは首を背後に向けると竜の顔を器用にも引き攣らせて小さな悲鳴のような声を上げて首を地面につきガタガタと震えだす。


「では、尋常に勝負――」


 私が戦の狼煙を口にしようとした時――。


『まいったのです』


 鼓膜を震わせる少女の声。


『黄金竜ファフニールの降伏宣言を確認。第八試練がクリアされました。

敵の無傷による討伐により、特別クリア特典が出現します』


 そんな頓珍漢で無機質な女の勝利宣言が頭の中に反響する。


「ぬ?」


 冗談ではない。此度は、まだ刃さえ交えていないのだぞ。さらに想定外の事項は続く。

 透明の板が眼前に出現し、そこには――。


『なんと、黄金竜ファフニールが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている。

 仲間にしてあげますか? 

《はい》or《いいえ》』


 、と記載されていた。

 仲間になりたいって、こんな巨大な生物、そもそも私についてこれるわけがなかろうが。

 いや、まてよ。このダンジョンには無駄が一切なかった。とすれば、ついてこれるように変化する。そう考えるべきか? 

 ともかく、この蜥蜴、話せるらしい。何せ1万年以上ボッチですごしてきたからな。たまに聞こえてくる無機質な女の声にまで癒されるという病的な禁断症状も発症していたくらいだ。これは行幸かもしれんぞ。


「うむ、《はい》だ」


 迷わず《はい》を押すと、黄金の竜が光り輝き、急速に縮んでいく。おう。やっぱり、大きさに補正がかかるようだ。

 若干テンションが上がりながらも、眺めていたが――。


「いや、少々、小さくなりすぎでは?」


 遂に人くらいの大きさになった。というより、あれは人そのものだな。

 白と黒を基調する女性の衣服を着た小柄な体躯、十代前半の幼い顔。どっからどう見ても、童女ってやつだろう。黄金に煌めく髪は耳を隠すほど長く伸びていて、さらにリボンのところからら二つに分かれて腰まで伸びている。


「ご主人様、ファフニールなのです。よろしくなのです!」


 その竜はペコリと小さな頭を下げてきやがった。


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