第14話 自称邪神の鼻の長い魔物


 特別クリア特典とやらの中身は【竜神の衣服】、【竜神の外套】、【竜神の靴】だった。

 三点とも、とにかく頑丈であり、劣化がしない特殊効果がある。さらに、強力な物理耐性も有するようだ。

 物理耐性はともかく、迷宮内で獲得した衣服は既にいたるところがボロボロ。頑丈で劣化しないのはマジで助かった。

 そんなこんなで、ファフニールとの奇妙な共同生活が始まる。

 本をゆっくり読みたいがために、周囲の木材を利用して住居はこしらえている。迷宮内で獲得した書物の中には、建設系の本もあったから結構精巧に作れたと思う。

 今は290階層でとれる雷牛の肉を使って料理を振舞っているところだ。

 ちなみに、塩は170階から180階の海水ゾーンから水をアイテムボックスに入れたあと、それを迷宮で獲得した窯のようなアイテムに入れて、炎剣で炙ることにより得られた。時間はあるし、結構ストックもたまっているのだ。


「美味しいのです!」


 ファフニールは、幸せそうにリスの頬袋のように肉を口に含んでいる。


「それはよかったな」


 私も肉を口に含むと、口の中に何とも言えない甘味が広がる。

 うーむ、このように他者とテーブルを囲むのもいいものだな。というか、人生のほとんどをボッチで過ごしてきた私としては会話ができる。それだけで、気が紛れる。

使命感にも似た強者との命の取り合いの渇望はまだ燻ってはいるが、ファフニールの登場のお陰で大分治まっている。

 彼女も料理やら私とのダンジョンの探索に楽しんでいるようだし、ウィンウィンの関係ってやつだろう。



 ――ゲーム開始から約1万3千年後


 400層に到達した。今は試練の間で、鎧に身を包んだ巨大な鼻の長い生物と対峙している。この生物は、迷宮で発掘した異世界の動物図鑑にあったな。たしか、『ゾウ』とかいったか。もっとも、こいつは四つ足ではなく、二足歩行だがね。


『我は邪神ギリメカラ、新米神の分際でこの階層まで至るとは褒めて遣わぁーーーす!』


 うーむ、なんかやけに尊大な魔物だな。しかも、自分を邪神って……少々盛り過ぎだと思うんだがね。というか、これが本で読んだ少年時代に陥る妄想を引きずっている病気という奴なのだろうか。


「なあ、ファフ、こいつどう思う?」


 ファフとはファフニールのことだ。長い名前なので、面倒になってここ百年はファフと呼んでいる。


「ぶっ殺すのです!」


 右手のナックルを天に突き上げるファフ。

 はいはい、相変わらず、ファフは物騒ですねぇ。

 暇つぶしにファフに戦闘訓練をしてみたら、本人がやたらとはまってしまいこんな戦闘狂のような性格になってしまった。完璧に子育てに失敗してしまった感はある。やはり、ここは親代わりとして手本を見せねばなるまい。


「おい、怪物、今すぐ降伏しろ。そうすれば見逃してやるぞ」


 端的に奴にとって最適な道を提示してやる。


『この我に……降伏しろ、だとぉ?』


 ガタガタと小刻みに全身を震わせつつ、鼻の長い生物は低い声を上げる。

うーん、そこまで怖がらせてしまったか。対峙してみれば一目瞭然。今のこいつと私では天と地ほどの実力差がある。小動物は本能で己が勝てぬ相手を理解すると本に書いてあったし、まさに今のこいつが、それかもしれんな。


「そう、怯えるな。私は危害を加えてこなければ、蟲けらから竜まで全力で見逃すぞ」


 以前は問答無用に殺していたが、最近のファフの物騒さを鑑みてこのようにかなり温和になってきたのだ。


『き、き、貴様ぁぁーー、わ、我はぁ、我はぁ大神マーラ様の第一の家臣、邪神ギリメカラなるぞっ! 本来下級神ごときが会話などできぬ地位にある――』

「そうか。拒否するのだな」


 しつこい妄想のバリバリの入った自己紹介に少々、ウザくなった私は【雷切】に【魔装】を付着させて全力の魔力を込めて振りぬく。

 尋常ではない量の白光が巻き上がり、自称邪神は一瞬で消し炭となった。


「ご主人様、流石なのですっ! 即殺なのですっ!」


 なぜだろう? なんか、ファフの感性がさらに悪化したような。まっ、いいか。常識は一長一短にはいかぬものだ。ゆっくりと学ばせればいい。

ともあれ、結果、特別クリア特典として『討伐図鑑』というアイテムを得た。


  ―――――――――――――――――――――

★【討伐図鑑】:【神々の試煉ゴッズ・オーディール】内で討伐した存在の魂を図鑑の所持者と連結した上で図鑑の世界に収納し、魔力を用いて肉体を創造。適時、召喚することができる図鑑。

ただし、最初に使用した者のみが以後、所有者として本の中に討伐存在を収納、召喚しうる。さらに、図鑑の世界規模、収容能力は所持者の魔力に依存する。

・アイテムランク:超越級

  ―――――――――――――――――――――


 そして眼前に現れる、『邪神ギリメカラの魂があります。図鑑に捕獲しますか?』と書かれた透明の板。

 うむ、あるんだし、試してみない手はないな。右の人差し指で【はい】を押すと、図鑑が輝きページが勝手に開き、あの鼻の長い怪物が入っていた。

 うむ。これは面白いな。どうせ時間は無限にある。検証して使えそうなら、もう一度一階から図鑑をコンプリートしてみることにしようか。

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