第6話 試煉の始まり
階段を上って神殿の中へ足を踏み入れる。
神殿内は、床、天井、壁全てが透き通った青色の石でできていた。部屋の壁伝いには不思議な形をした発光する丸い水晶が定位置に配置されている。そして部屋の中心には表面に魔法陣が描かれた円柱状の大座と、その脇には黒色の石板のようなものがあった。
「すごいな……」
人が作ったにしてはあまりに美しすぎる遺跡だ。
部屋の中心にある台座と石板へと近づくと精査を開始する。
黒色の石板の表面には、手形のような形が描かれていた。ここに右の掌を掲げろってこと?
生唾を飲み込みながらも、右の掌を充てると――。
『神級ランク以上のギフトのアクセスを確認。カイ・ハイネマンのプレイヤー登録を試みます………………完了いたしました。
ようこそ、【
突如眼前に出現する透明の板に、思わず咄嗟に右手を石板から離すと、その板は消失してしまう。
何、今の? 文字が出てきたけど……もう一度掌を当ててみよう。
再度、石板に右の掌を充てるがうんともすんとも言わない。
「これ、なんだろ?」
視界の右端に点滅している小さな棒上のものがあったので触れると、突如視界一杯に出現する透明の板。そこには次のような文字が書いてあった。
――ルールその1.このゲームをクリアしなければこの場所を出られない。
――ルールその2.プレイヤー登録した者はここでは一切歳をとらず、外部の世界の時間も停止する。
――ルールその3.プレイヤーには【
――ルールその4.アイテムボックスに収納できるエリクサーはコップ20杯分までである。
この『ゲーム』とは遺跡のこと。つまり、遺跡を攻略しなければ出さないってこと? ちょっと待ってよ! 遺跡の攻略は、一流のハンターがチームを組んで臨むべき事項。僕一人で攻略しろって? 不可能だよっ! それにここの内部と外の時間も停止しているなら、クリアして外に出た時点であの獣どもと鉢合わせする。時間稼ぎにもならないってことじゃないの?
「それじゃ意味がないよっ!!」
いや、落ち着けってばっ、! 今更動揺してどうするのさ! まず、一つ一つ整理して考えていこう。
『ゲーム』とやらをクリアしなければ、この遺跡を出れない。出るまではこの内外の時間は停止するが、制限時間はない。さらに、次の五つが与えられている。
一つ、【
二つ目、【特殊鑑定】の【鑑定】は、様々なものの性質を読み込む能力であり、【鑑定士】などのギフトを有するものが取得できるスキルとされている。
三つ目の【とんずら靴】は逃亡系のアイテム、四つ目の【絶対に壊れない棒】はその名の通りひたすら頑丈な棒なんじゃないかと思う。
最後のエリクサーは、あらゆる傷を一瞬で治すとゆわれる万能の霊薬。これは完璧に御伽噺の世界のアイテムだ。
これらのスキルは特定のギフトを有するものしか取得できないはず。僕のギフトは【この世で一番の無能】だ。どうやっても不可能なはずなんだけど。ともかく、物は試し。
「アイムボックス――うぉっ!? 」
そう呟いた刹那、『リスト』と書かれた透明の板が眼前へと飛び込んでくる。
指で押してみると【とんずら靴】と【絶対に壊れない棒】の二つが表示されていた。
「本当にアイテムボックスなの?」
震える右の人差し指で【とんずら靴】の項目に触れると僕の眼前の地面に一足の黒色のブーツが出現する。はやる気持ちをどうにか抑え、靴に触れて収納と念じてみると、
「き、消えた……」
リストの板を押すと【とんずら靴】という項目があった。
「すごい! これはすごいことだぞ!」
アイテムボックスは、ただでさえ貴重なスキルと言われている。何せ商人系の
【とんずら靴】を取り出してそれに触れつつも、
「鑑定!」
大声で叫ぶと、透明の板が視界一杯に広がる。
―――――――――――――――――――――
★【とんずら靴】:逃亡を選択したら、敵から高確率で逃げられる靴。ただし、一度所持者の意思で戦闘を開始したら、その戦闘での靴の逃走の効力は失われる。
・アイテムランク:最上級
―――――――――――――――――――――
「すごいな……」
無意識に両拳を強く握りしめていた。
敵から逃げられやすくなる靴なんて聞いたこともない。まさに国宝級のアイテム。この【とんずら靴】があれば、この【ゲーム】とやらをクリア後、外の獣どもから逃げられる可能性がぐっと高くなる。
【絶対に壊れない棒】も調べてみると、【とんずら靴】と同じく最上級のアイテムであり、『絶対に劣化も破壊もされない棒』という鑑定結果だった。これも人の力では作ることが叶わぬアイテムだ。
ともかく、二つの希少スキルである【鑑定】、【アイテムボックス】があれば僕のクズギフトでもハンターとして活躍できる。それは兼ねてからの僕の夢がかなうのと同義。
ゲームクリア後については目途が立った。これでゲームクリアに邁進できる。
そうだ。このスキル鑑定、自分を解析できないだろうか。
今度は己を指定し、【鑑定】と叫ぶと、テロップが浮かび上がってくる。
―――――――――――――――――――――
★ステータス
【名 前】 カイ・ハイネマン
【年 齢】 15歳(年齢進行停止中)
【ギフト】 この世で一番の無能(神級)
【HP】 5
【MP】 3
【力】 0.1
【耐久力】 0.1
【俊敏性】 0.1
【魔力】 0.1
【耐魔力】 0.1
【運勢】 0.1
★保有スキル:【
―――――――――――――――――――――
よし! 【鑑定士】の鑑定には、通常、個人の能力を評価することができる機能が備わっている。
このステータスって、まさかハンターギルドが公式採用している能力値評価ってやつ? ハンターギルドはこの自己鑑定能力を有する人たちの協力のもと、独自の能力評価判定機能を有する魔道具を開発し、実戦配備していると聞いたことがある。
実際のハンターの評価基準はわからないがこの僕の能力値の平均は0.1……きっと、滅茶苦茶弱いんだろうな。これも、僕のギフト『この世で一番の無能』の効果なのかもね。
それはそうと、僕のギフトの『この世で一番の無能』が点滅している。触れてみようか。
―――――――――――――――――――――
〇ギフト名:この世で一番の無能
・説明:この世で最も才能がないものが持つギフト。相対才能強度や成長率はこの世の知的生物の中で最も低いが、無能であるが故にあらゆる事項に関し限界はない。
・ギフトランク:神級
―――――――――――――――――――――
あらゆる事項に関して限界はないか。象徴的すぎて判然とはしないが、ようは頑張れば報われる的なギフトってわけかな? だとしたら、逆にすごいギフトなのかも? いや、しょせん僕の保有ギフトだ。あまり過度な期待はしないでおこう。それに、どうせすぐ真偽ははっきりするしさ。
さて、次が最後のエリクサーだ。
エリクサーは、神話や御伽噺ででてくる一瞬で回復させる妙薬だったはず。信じられないのが本心だが、無能な僕が鑑定やアイテムボックスのスキルを獲得しているのだ。万が一があるかもしれない。片っ端から鑑定をかけてみるのか吉かも。
「嘘……」
木陰の近くの湖の鑑定の結果はまさに驚くべきものだった。
―――――――――――――――――――――
〇エリクサーの泉:万能薬たるエリクサーが無限に湧き出る泉。
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エリクサーが無限に湧き出る泉ってどんな泉だよ!
試しに腰ナイフを抜いて右手の人差し指先を少し切ってから、その泉の水に入れてみる。
「治った……」
その非現実的な現象に暫し、口をパクパクさせていたが、直ぐに叫び出したいような魂の歓喜が沸き上がり、僕は喉が潰れんばかりの咆哮を上げた。
――そう。このとき、僕は滑稽にも浮かれていた。
だって、世界一の無能との烙印を押された僕がアイテムボックスや鑑定という希少スキルを獲得し、しかもエリクサーが湧き出る泉という世紀の大発見もしたんだ。こんなこと一流のハンターだって不可能。ハンターギルドへ報告すれば、優遇されることは間違いない。
だから――これで将来母さんのような一流のハンターとして活躍できる。そんな笑っちゃうような勘違いをしてしまっていたんだ。でも、僕はわかっちゃいなかった。世の中、上手い話には裏があり、奇跡には必ず苦難という対価がついてくるという当たり前の事実を!!
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