第17話 自分の行動の顛末を見る・下
「おや、先日の探索者か。120000は稼げたのかね?
まあ、別れを惜しみにきたというなら少しぐらい待つのはやぶさかではないぞ」
「……申し訳ありませんが、もう買い取りは終わっておりまして」
「……なんだと?」
「この二人はこちらのスミト様のものでございます」
アルドさんが淡々と告げた。
何を言っているのか分からない、という顔をした男にアルドさんがテーブルの上の割符を示す。
「なんだ、あれは?」
「先ほどスミト様のお支払いになりました、120000エキュトでございます」
「馬鹿な……二日で120000エキュト稼いだというのか?
「確かに受け取りました」
勝ち誇った顔色がみるみる青ざめる。
この野郎の言っていたことで一つだけ同意できることがあった。たしかに希望が砕けちる様は見ものだ。相手がゲス野郎であるのなら心が痛まなくていい。
「倍額を支払う。言いたいことはわかるな?」
「……取引はすでに成立しております。ご希望がありましたらスミト様とどうぞ。
私の関知するところではありませんので」
アルドさんは取り付く島もない、という感じで男の言葉を一蹴する。
男が僕をにらみつけるようにしてこっちに来た。
「おい、おまえ。あの二人を私に譲れ。
よく聞け、いいか?お前には二つの利点がある。
一つは金だ。お前が出した金の3倍、いや5倍を払ってやろう。しがない探索者には破格だろう?」
なんといわれても答えは決まっているから、僕が口を開く必要はない。
黙っていると男が勝手に話をつづけた。
「二つ目は貴族とのつながりだ。
わが主、ラクシャスさまに口をきいてやろう。貴族とのつながりはお前の役に立つぞ?いい条件だろう。あの二人を私に譲れ」
「まず言うけど、僕はラクシャスなんてしらん」
「馬鹿か、貴様?どこの田舎者だ?」
この状況でも高慢ちきな上から目線なのは一周回って感心してしまうな。
「それに、お前が今の10倍積んでもあの二人は譲らない。100倍でも答えは同じだ。
だが、断る。誰もが金と権力にひれ伏すと思ったか?」
「……正気か、おまえ?」
これ、さっきも言われたな。
「ああ正気だ。でもあんたには感謝はしてるんだ。2日間くれなかったら無理だった。
そんなあんたに僕の故郷のいい言葉を教えてやる。謙虚にふるまって、さっさととどめをさせ、だ。
話は終わりだ、さっさと消えろよ。ご主人様にお仕置きされなきゃいいな」
「およびじゃねぇんだよ、貴族様よぉ!」
「帰れ、コラ!」
カウンターの向こうの奴隷達からも罵声が浴びせられた。
「探索者や奴隷を見下してたかもしれんが、てめえみたいな権力をかさに着る奴は万人に嫌われるんだわ」
「ただで済むと思っているのか?」
「2日で120000稼ぐ探索者相手に力ずくでくるのか?いいぞ、かかってこい。
その時は遠慮なくその頭に風穴開けてやる」
すさまじい目でにらまれる。だが、目はそらさない。
「覚えていろよ」
絵にかいたような捨てセリフを吐いてそいつは出ていってドアが荒々しく閉められる。西武渋谷店一階に静寂が戻った。
◆
「話は終わりましたでしょうか」
アルドさんが声をかけてくる。
「終わりましたよ。ありがとうございます。
でも倍で売れるんならあいつに売ってもよかったんじゃないですか?」
アルドさんが肩をすくめる。
現代日本ならともかく、契約が法的に拘束力のある世界とも思えないし、そもそも契約書を交わしたわけでもない。
反故にされる可能性はあったから、一瞬ヒヤッとした。
「商売を長く続けるのに大事なのは信用です。金に目がくらんで一度成立した取引を解消することはできません」
アルドさんが変わらずに淡々とした口調でいう。
見上げた精神というか、というかなんというか。倍額の取引を蹴っ飛ばすんだから、なんとも誠実な話だ。正直言って感心してしまう。
「……それに。どうせ売るならば、よりましな相手に売れた方がいい、とは思っております」
アルドさんが少し笑って深々と頭を下げた。
アーロンさんがこの人を紹介した理由がなんかわかる気がした。
「お買い上げ有難う御座います。
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