第14話 表参道で戦車に追い回される。上

 予定通りに行けばいいけど、なかなかうまくいかないのが世の常。


 朝早く出発したものの、表参道にたどり着くまでに何度もゲートが開き魔獣を相手にする羽目になった。せいぜいがオーガ程度の雑魚ばかりではあるけど、とにかく時間を浪費させられる。


 流石にオーガを乗用車で撥ね飛ばすのは無理だ。次に急ぐときはトラックか何かを動かそうと思った。

 時間を食わされて表参道にたどり着いた時にはもう日が高くなっていた。



 人がいない以外はあまり変わっていなかった恵比寿駅前と違い、表参道は、確かに何かが現れた跡があった。

 横倒しになった車が散乱して、一部の店が火事かなにかで焼け落ちている。

 今はなんの気配もないけど、何かが現れてもおかしくない、という不穏な空気は伝わってきた。


「スミト、何処へ行けばいい?」

「この建物を捜索します」


 目標にしたのは表参道ヒルズだ。

 事前に本屋で少ししらべておいたけど、ここが一番色々な店が固まっている。あちこちの宝石店をめぐるよりもここを探す方が効率はいい。

 表参道ヒルズはデートで一度来たことがあるけど、吹き抜け構造のオシャレな建物で中はわかりにくい。

 ただ、ここは管理者アドミニストレーターが有効に使える。


管理者アドミニストレーター起動オン階層地図フロアマップ表示インディケイション


 階層地図表示なら何がどこに何があるのかがすぐわかる。探索には便利な能力だ。

 自分のいる階しか分からないのは面倒なのだけど、ぜいたくは言えない。


 適当なジュエリーショップに入って、整然と並ぶショーケースのガラスを銃床で砕く。

 なんかやってることが宝石泥棒そのまんまなので、非常に気が引ける。思わず防犯カメラを見てしまうけど、電源ランプはもちろんついていなかった。


「こんなのはどうでしょ?」


 ガラスで手を切らないように取り出したのは、シンプルな立て爪にダイヤをあしらったシルバーのリングだ。値札を見て頭が痛くなった。僕の給料1か月分を超えてる。

 レインさんがそれをじっくりと眺める。


「悪くはないですけど……石が小さいですし装飾もシンプルすぎます。

小さくてもいいからいくつかの石を組み合わせているものや、細工が複雑なものの方が値が付きます。そういうのを探しましょう」

「まあとりえず、これはこれでもらっとこうや」


 こちらとガルフブルグでは、どんなものに価値があるのかは異なるわけだけど、この手の評価は女性の意見の方が参考になる。

 レインさんがいるのは有り難かった。


 地下一階、一階と順に捜索し、価値のありそうなものを中心に袋に入れていく。

 二階まで来てようやくレインさんのお眼鏡にかなう店に当たった。


「素晴らしい細工ですね……ここのが一番ガルフブルグで良い値がつくと思います」

 

 ついている値札は最初の店よりかなり低いのだけど、ガルフブルグで売るにはこちらのほうがいいらしい。

 ブランドのグレードとかもあるんだろうけど、世界が変われば好みも違うってことか。


「よし、ここのを頂いていこうぜ」

「急げよ。ここは何が起きるかわからん。今回の目的は魔獣狩りじゃないからな、戦闘は避けたい」


 アーロンさんがカーテンの隙間から外を警戒しながら言う。


「すげぇな、スミト。こんなの大公家のお嬢様だってつけてねぇぜ。こいつは高く売れるぞ」

「ほれぼれします。どんな職人の方が作られたんでしょうか……」


 二人が指輪やネックレスを取り上げながら感嘆の声を上げた。

 時間がないので、持ってきた袋に端から貴金属類を入れていく。店の2/3あたりまであさったところでアーロンさんの声が聞こえた。


「そこまでだ!撤収準備。ゲートだ」

「しゃあねぇな。これだけあれば大丈夫だろ、たぶん」



 階段を駆け下りヒルズの外に出ると、表参道の通りの真ん中に黒い塊が現れていた。しかも帰り道にするはずだった神宮前へのルートをふさぐ形で。

 行き道でやたらと魔獣と遭遇したことといい、今日はどうにも間が悪い。


「さて、何が出てくるかねぇ。雑魚だったら行きがけの駄賃だ。狩ってこうぜ」


 リチャードが鞭を構えて軽口をいう。確かにさっきまでのオーガとかそのくらいなら問題ないけど。

 僕は近くの車に近寄った。いつでも逃げられるようにしておかないと。

 緊張しながらゲートを見守る。前に見たのよりゲートのサイズが大きいのが非常に嫌な予感なんだけど。


 黒い稲妻のようなものを放つゲートから、まず馬の前足が出てきて、巨大な2頭の馬が姿を現した。競馬の馬の1.5倍くらいはありそうだ。そして首がない。

 次にその馬が引く古代ローマを舞台にした映画で見たような戦車チャリオットがゲートから出てくる。

 その戦車には右手に大剣、左手に自分の首らしき兜を下げた首なしの騎士がのっていた。


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