第13話 一日だらけていたら翌日状況が一変していた。下


 実を言うとカネを稼ぐのに当てがないわけじゃない。

 ただ問題は、120000エキュトになるかは分からないということだ。それにソロで無理をして、僕が死んでしまえば本末転倒だ。アーロンさんを待つしかない。


 しかし、ゲートの前で待てど暮らせど、なかなか戻ってきてくれない。

 誰かと待ち合わせしても、メールなり携帯なりで簡単に連絡が取れたから、当てもなくただ待つだけの時間ってのはあまり経験がないんだけど。なんというか、時間が異様にゆっくりと流れていくように感じる。

 イライラオーラが出ていたのか、ゲートの書記官や酒場のウェイトレス達が僕をいぶかしげにみていた。

 

 いい加減ゲートの向こうに行って首根っこをつかまえようか、と思った4時ごろ、ようやくアーロンさんが現れた。

 文句を言っても仕方ないが、遅い。


「おお、スミト待っててくれたのか」

「腕試しはできたか?」


「突然ですが、アーロンさん。

明日の日暮れまでに120000エキュト稼ぎたいんです。協力してください」


 僕の言葉を聞いた3人があっけにとられた、というか、何言ってんだこいつ、っていうような顔をする。


「なんだと?120000エキュト?」

「おいおい、スミト、何言ってんだ?博打で負けたにしてもやられすぎだろ」


 日本円換算で1800万だ。そりゃ驚くだろう。僕だって言われれば相手の正気を疑う。


「そうじゃないです。実は……」


 とりあえず手短に事情を説明する。


「なるほど。そういう事情か……しかし2日で120000とはな」

「だがよ、なぜお前がそこまでするんだ?情でも移ったのか?」


 情が移った、のか。なんでこうまでするのか。僕にも正直わからない。

 ただ、あの二人が引き離されるのを観たくなかった。それを見捨てる自分が嫌だった。今はあのゲス野郎な貴族様に一泡吹かせてやりたい、というのもあるけど。


「なんとなくです。でも約束してしまった以上、やることはやらないと」


 僕の顔をアーロンさんがじっと見る。


「……いい目になったな。どういう心境の変化か分からんが、二日前とは別人だ。いいだろう。力を貸そう。

お前らはどうする?」

「私はアーロン様に従うだけです。それに私も奴隷ですから……お手伝いできればと思います」

「そこまで入れ込むってことは、その奴隷はかわいこちゃんなんだろ。じゃあ俺が手を引くわけにはいかねぇな」


「……ありがとう」



 とりあえずホテルのロビーに移った。

 ロビーの机に本屋から持ってきた東京の地図を広げる。


「もちろんノープランってわけじゃないだろうな、スミト?」

「当然です」


 アーロンさん達が返ってくるまでに色々と考えた。

 アラクネのコアクリスタルは僕の取り分から考えれば2700エキュトくらいのはずだ。と考えると単純に計算しても55匹狩らなければいけない計算になる。

 一匹ずつ並んで狩られてくれればいいけど、そんな都合のいい魔獣はいないだろう。


 勿論単価が高いコアクリスタルを出すのもいるのかもしれないけど、あれより強い魔獣を狩ろうとしたらリスクは格段に上がる。

 中にはドラクエのメタルスライムのようにボーナス的なドロップをおいていくのがいるかもしれないけど。それ以前に問題として、そもそもどこにどんな魔獣が出るのかが、僕にはわからない

 いずれにせよ、魔獣を狩って二日で120000を稼ぐのはほぼ不可能だ。


 ということは、狙うはこの世界の宝物、ということになる。

 食料とか消耗品も売れそうだが、狙うべきは宝石類だ。小さくて持ち運びがしやすいし、装飾品とか宝石とか金細工とかの価値は場所を超えてもおそらく同じだ。

 実際に金細工の装身具を身に着けてる人はちらほらいた。売れるはずだ。


「どうでしょう?」


「それしかないだろうな。目のつけどころは申し分ない。やるじゃないか」

「こっちの世界の宝石細工はドワーフのものにも負けないって評判なんだぜ」


 問題は120000エキュト分を確保できるか、ということだけど。


「だがこのディグレア、まあシブヤでもいいが、この辺りはあらかた探索されつくしているから宝石はもうないだろう。どこかに取りに行く必要があるぞ。

それに、どんな魔獣が出るかわからない未踏域を当てもなく歩き回るわけにはいかない」


 |管理者(アドミニストレーター)のスキルも便利ではあるけど、僕の最大の強みは、この世界のことをここの誰よりも知っていることだ。

 ブランドジュエリー店になんて僕は縁がないけど、銀座や表参道とかにそういう店がたくさんあることくらいは知っている。

 今回は時間がないから少しでも近い方がいい。


「僕らが会ったあの辺は新宿っていうんですけど、あそことここの中間くらいの場所にそういうところがあるはずです

どうでしょう?」


 地図を指さす。三人が微妙な表情を浮かべた。


「どうしたんです?」


「あの辺はなぁ……実はかなり強力な魔獣との遭遇報告があってな」

「俺たちがあの辺りを飛ばしてシンジュクとやらにいったのはそういう事情もあるんだ」


 そういうことか。

 でも宝石が売れるということはわかった。可能性があるなら行くまでだ。


「一人でも行く、って顔だな。安心しろ。付き合ってやる」

「お供しますよ。ご安心ください」

「そういう覚悟をしておけってことさ」


「なんでそこまでしてくれるんです?」


 頼んでおいていうのもなんだけど、正直言ってここまでしてくれる理由がわからない。

 まだ会って3日程度だというのに。善人にもほどがあると思う。


「俺たちはお前に助けられた。

アラクネは本来なら俺たち三人で戦えば問題なく勝てる相手だが、あの時はこちらも連戦で消耗していたし、突然塔の上から奇襲を受けてな。

お前がいなければ俺たちはあの地下でアラクネの餌になっていたかもしれん。

その恩は返す。それだけだ」


「それにお前と仲良くしとけば、この世界の探索では有利そうだからな。

タダじゃねぇぜ?スミト。いつか返せよ」


 ……僕は変な異世界のようなところに一人ぼっちで来てしまったけれど。でも出会いには恵まれた。それは本当に救いだ。


「感謝します」

「明日の早めに出かける。とってきたものを売るにしても大金だ。換金の時間がいるだろう。

早く帰れるにこしたことはない。商人に話を通しておくようにギルドに言っておいてやる。

スミト、お前は休め。戦闘になればお前にも前衛に立ってもらうぞ。腹はくくっとけよ」


 いいとも。望むところだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る