第4話 新宿駅地下でモンスターを倒し、ドロップアイテムを拾う。
>>スロット判定を行います。よろしいですか?
>YES/NO
ゲームみたいな表示が紙に現れた。僕の頭はストレスでイカレタのか?それとも実は暗闇の中で寝ていて夢でもみてるんだろうか?
「YES……?」
>>スロットを判定します。
>
>>
>>>
>>>>
紙に文字が現れて縦にスクロールするように流れていく。なんとなくコンピュータのプログラムが流れているみたいだ。
黙ってみていると、ようやく意味が分かる文字が出てきた。
>>あなたの「スロット」は
A攻防・6
B攻防・4
C攻防・6
D魔法・6
E魔法・6
F魔法・5
G特殊・5
H特殊・6
I特殊・6
です
>>同種スロットは連結できます
>>G・H・Iスロットを連結します。
>>G・H・Iスロットに
>>ほかのスロットを連結しますか?
「おらぁ、かかってこいや」
リチャード氏が鞭を振り回して戦っている。
よく見ると鞭には刃のようなものがついているらしく、光が反射してきらめく。斬撃鞭とかどっかの古典アニメのようだ。
蜘蛛の前足が床のタイルや壁に突き刺さり破片が飛び散った。
スロットってのがそもそも何だかわからないうえに、勝手にG・H・Iのスロットは連結されてしまったわけだが。
「意味が分からんのだけど…」
>>ガイドを行いますか?
ガイドってのはヘルプ機能的なものなんだろうか。
何が何だかわからないけど親切設計だ。ガイドを表示してください。
>>スロットは攻防、魔法、特殊、回復の4種あり、あなたの固有の才能です。
>>スロットには攻撃方法、魔法などをセットできます。スロットの数が高いほど強力なスキルをセットできます
なるほど。6というこの数値はいいのかはわからないが、これが僕の「才能」らしい。自分の才能を数字で見れるのはなかなか便利だ。
これを見る限り、スロットは連結すると強力な攻撃ができたりする。
ただしスロットに技をセットする、ということは、連結すればスロットの絶対数は減るわけで、使える技の数は減る、ということなのかな。
回復はなかったから、僕には回復魔法の素質はないようだ。
これは残念。ゲーム的には回復系のスキルはあると便利なんだけどね。
ガキンと音がしてアーロン氏が吹き飛ばされ地面に転がったのが見えた。
「レイン!
特に怪我とかはしてないようですぐさま立ち上がる。
「攻防スロットのAとBを連結。あとは魔法スロットのEとFを……」
>>連結すると解除できません。よろしいですか?
>YES/NO
キャラクターメイキングのやりなおしとかはできないわけだ。
「いいよ、YESで」
よく分かんないけどな。現実感ゼロのまま、とりあえず進めてみる。
>>攻防スロットA・Bにスキルをセットしてください。
>>スピード、パワー、エレメントのパラメータを決定してください。
>>配分可能ポイントは100です。
スロット合計は10だから100ポイント、なのかな。
……攻撃で大事なのはなんだろう。威力か?スピードか?個人的にはスピードだと思う。当てにくい高火力より、当てやすい中火力だ。
「ガイド希望。エレメントって何?」
>>地水火風の4属性であり、地と風、水と火は対立属性です。エレメントの値が高いと対立属性に対して大きな威力を発揮します。
>>また同属性の攻撃を吸収することができます。
>>無属性の場合は、いずれの属性に対しても有利不利はありません。
なるほど。なくてもいいし、あればあったで有利なこともある、ということか。
ただし同属性を吸収できる、ということは、吸収されることもあるということだ。デメリットは無視できない気がする。
「こんちくしょうがぁ!」
蜘蛛の脚は何本もあるので、リチャード氏は不利な戦いを強いられているようだ。
10メートルほどむこうにはモンスターとしか言いようがないのがいて、戦いが起こっていて、僕の目の前には変なメッセージシートが浮かんでいて、自分の才能とやらを数字で見ている。
現実感がないけど、夢にしても相当にすっ飛んでるな。どこかで覚めてくれれば話が早いんだけど。
「エレメント0、スピード70、パワー30で」
>>決定しますか? YES/NO
「YES」
>>スロットA・Bに攻防のスキルがセットされました。
>>ほかのスロットにセットを行いますか?
「次は魔法かな?」
>>魔法スロット(E・F)にスキルをセットしてください。
>>スピード、パワー、エレメント、レンジのパラメータを決定してください。
>>配分可能ポイントは110です。
>>基礎消費は5です。消費を増やすことにより配分可能ポイントを増加させられます。
レンジは射程だろう。他はさっきと同じだ。
攻防は消費はないけど、魔法は消費があって、かわりに消費を増やすとより強化できるわけだ。
「きゃあっ」
「レインちゃん!」
声が上がったので見ると、女の子に白い蜘蛛の糸が巻き付いてた。
アーロン氏が糸を切るが粘ついた糸が絡みついてうまくいかないようだ。蜘蛛だけに糸を吐くわけか。
「攻防のほうはスピード重視だったし、こっちはパワー重視かな。パワー100、スピード30、レンジ30、エレメントはなくていいや」
>>消費は10です。決定しますか?
「ところで僕の……MPでいいのかな、その数っていくつ?」
>>52です。決定しますか?
5発撃てれば十分なのかどうなのか。
まあいいや、夢の中だし何でもありだ。
「YES」
>>スロット(E・F)に魔法のアクションがセットされました。
>>ほかのスロットにセットを行いますか?
動きの鈍ったレインさんをかばうように動いていたリチャード氏に蜘蛛の前脚が命中した。
槍を突くように繰り出された一発目と二発目で青い光が消し飛ぶ。武器で戦ったことなんてないけど、鞭は受けに回ると脆いかもしれない、防御には向いてなさそうだな。
振りまわすような三発目がリチャード氏に当たった。赤い血がパッとしぶく。
「くそ、やっべぇだろ、これ」
リチャード氏が胸を押さえながら後退する。血が流れているのが見えた。
>>ほかのスロットにセットを行いますか?
「後でセットするのはありなの?」
>>可能です。スロットシートをオープンしてください。
「じゃあ後にするわ」
>>初期設定を終了します。最後にスロット武器を決定してください
「武器ってなに?」
>>攻防スロットにセットしたアクションで使用する武器です。
>>個人レベルで使用可能であれば任意に選択可能です。
なんかもう本当にゲームだね。
武器って言っても平成の東京に生きている人間からすると、警官の拳銃とか護身用の警棒とか、日本刀とか、そんなものしか思いつかない。FPSみたくアサルトライフルとかもありなんだろうか。
「ぐあっ」
アーロン氏が吹き飛ばされて僕の目の前に転がった。脇腹を刺されたらしく革のジャケットが裂け、血が噴き出している。
「大丈夫?……のわけないよね」
「なんだお前……なにしてる。戦えないなら突っ立ってないで逃げろ」
見るとリチャード氏は防戦一方だ。蜘蛛の脚はいくつか断ち切られているが、動きには影響はないっぽい。
「武器ってどう出すの?」
>>最初の具現化の際は武器を明確にイメージしたうえで、
武器。そのときなぜか。僕の頭に浮かんだのは銃だった。
銃がいい。でも近代的で効率的な銃じゃなくて、三銃士に出てくるようなレトロで効率悪い奴だ。なんでそのとき頭に浮かんだのかはわからない。仕事で効率ばかり求められているからかな。
長い銃身、単発でさっき作った魔法をぶっ放せるような奴だ。銃口には銃剣がついているのがいい。
頭の中で昔見た三銃士とかの映画を思い出してイメージを描く。
「
唱えた瞬間、空中に光がフラッシュのように瞬いた。
ちかちかした光が蛍のような丸い明かりとなり空中でくるくると舞いながら集まっていく。呆然と見ていると、光が次第に細長い姿を形成し、パッと光った。まぶしさに目を背ける。
もう一度目を向けると、本当にそこには長いライフル銃のようなものが浮いていた。
◆
本当に出てきたよ。あっけにとられて浮いている銃を観察する。
僕の身長なみに長い銃身だ。いわゆる日本の火縄銃のように質素なつくりではなく、全体に龍のような彫刻が施されている。
銃剣もよく見るような、まっすぐのものではなく、龍の牙か炎のように波打っていた。
……こんな派手なのイメージしたかな?
空中に浮いていた銃がふっと落ちたので慌てて受け止めた。ずっしりとした重さが手に食い込んだ。
夢にしてはリアルすぎる、現実にしては突飛すぎる。
前衛のリチャード氏をフォローしていたアーロン氏が倒れたので蜘蛛がこちらにむかって距離を詰めてきた。
リチャード氏一人では食い止められない。レイン嬢も蜘蛛の糸に絡まれて後退できないようだ。
>>スロット設定を完了します
メッセージがそう告げると、紙が畳まれて僕のポケットに戻ってきた。
これが現実なら逃げても追いつかれそうだし、これが夢なら格好つけてもいい場面だろう。
それにここで一人で逃げるのはあまりに後味が悪い、そんな気がした。一人なら逃げる。でも誰かを見捨てて逃げるのはなんかいやだ。
「下がって!」
銃剣を見よう見まねで槍のように構えて、リチャード氏とレイン嬢の前に出る。
でも、格好をつけて、一瞬で後悔した。
目の前には巨大な蜘蛛の体。象のような巨体。蜘蛛は普通サイズでもグロテスクなのに、巨大サイズだと不気味さも100倍だ。
そそり立つ巨体は、分厚い壁に前に立ったような、上から押さえつけられるような圧迫感がある。
蜘蛛の上半身の女が僕を見下ろしてきて、視線が合ったのが分かった。新しい獲物、とか思ってるんだろうか。
固まっていると、おもむろに脚が振り上げられた。脚には包丁のようなサイズの鋭いとげがびっしりと生えているのが見える。
当たったら……どう見ても無事では済まないだろうな、なんて場違いに冷静な感想が頭に浮かんだ。
やっぱやめとけばよかったか……と後悔しているうちに、振り上げられた脚が杭を打つように僕に向けて振り下ろされた。
待って、まだ気持ちの準備が……そんなことより避けなきゃ。
だけど。その脚は……遅かった。それも恐ろしく。銃弾がスローモーションに見えるマトリックスみたいだ。
これは死ぬ寸前だとすべてがゆっくりにみえるとか、そういうのなんだろうか。それとも夢の中だからこんな風に見えるのか。
振り下ろされた脚を余裕をもって避けた。棘がタイルに深々と突き刺さり破片が飛び散る。飛び散る破片までゆっくり見えた。
当たれば死ぬね、当たれば。でもこれだけ遅ければ僕のような素人でもかわせる。
今度は脚が左右から振られた。これも遅い。文字通りハエが止まりそうに見える。まるで時間の流れがずれているかのようだ。
これだけ遅いと怖くもなんともない。こっちに当たる前に3回は切れそうだ。
右から来た脚の根元を銃剣で切り付ける。豆腐でも切ったかの如く、その脚が吹き飛んだ。黒い体液までがゆっくりと飛ぶ。丸い滴までがよく見えた。
背中からゆっくりのんびりと二本目の脚が迫ってきた。こちらは銃床で払いのける。蜘蛛がよろめいて後退する。
チャンス。
「これでも!くらっとけ!」
ジャンプして銃剣を横に薙ぎ払った。狙い通り、切っ先が首を切り裂いた。こんなことしたことないのに、当たるとは、我ながら驚きだ。
すさまじい、文字通り人の物とは思えない絶叫があがり、喉から真っ黒な血が噴き出した。
一瞬動きが止まり、巨体がぐらりと揺れて倒れこむ。断末魔のように痙攣する足が壁に突き刺さって破片をまき散らした。
噴水のように黒い血が噴き上がり、周りの壁を汚す。酸か何かなのか、壁からも白い煙があがった。刺激臭を感じて慌てて飛びのく。
手が震える。
これは……このモンスターを僕が倒したってことでいいのか。ゲームとかならファンファーレが聞こえる場面だけど、どうなんだ、これ。
いや、でも倒したと思ったら、いきなりまた動き出す、というのはホラー映画とか怪獣映画の定番だ。油断はできない。
警戒を解かずに見ていると白い煙の中に黒い渦のようなものが空中に現れた。
何が起こるのかとみていたら、死骸が分解されるかのようにそれに吸い込まれていった。
黒い渦が蜘蛛の死骸を跡形もなく吸い込み、後には白く光る水晶のようなものが残された。これは世に言うドロップアイテムって奴だろうか。
とりあえず危険は去ったっぽいので構えを解いた。ふう。
「おいおい、アンタめちゃくちゃ強えじゃねえか。最初から手助けしてくれてもいいだろ?」
気が抜けた僕の肩をリチャード氏が叩いてきた。
「助かったよ。感謝する。だが、確かに最初からやってほしかったな」
アーロン氏も剣を杖にして立ち上がった。二人ともどうやら致命傷とかではなかったらしい。
「俺はアーロンだ。あんた、名前を教えてくれ?これだけ強いんだ。名前くらいは聞いたことあると思うんだが」
「……風戸澄人です」
外人さんの名前なのに言葉は普通に通じるのは不思議だな、と思ったけど、新宿の地下でモンスターを倒すよりは不思議じゃないな、と思い直した。
「カザマスミト?聞いたことあるか、旦那?」
「いや、ない。だが、まだ世界にはこれだけの探索者がまだいる、ということだろう。単独でアラクネを圧倒できるんだからな。ソロでこんなとこにいるのもおかしくはない」
二人の話に知らない単語がいくつか混ざっている。アラクネ、はあのモンスターのことっぽい。
「とりあえずここから離れませんか?次が来ると厄介なことになります」
レイン嬢が声をかけてくる。服にはまだ糸が絡みついているが動くのには支障はないようだ。
「そうだな。まずは地上に出よう。どう行けばいいかな」
地上に出たいのか。それについては僕も賛成だ。あまりにも今の状況は僕の理解を超えている。とりあえず地上に出て状況を見たい。
「ああ、じゃあ僕が案内しますよ」
「それは助かるが……道がわかるのか?」
「そりゃもう。こっちが近かったはずですよ」
迷路のような新宿駅だけど、毎日来ていれば迷ったりはしない。
ここから少し歩けば伊勢丹前あたりに出る出口があったはずだ。
レイン嬢の出した光の玉はその場からは動かせないようだけど、リチャード氏の持っていた棒の先の明かりで道は大体照らされているから、まあ何とかなった。
明かりに照らされた見慣れた広告や案内看板を見ながら、暗い地下道を進む。
明かりに不自由はあったけど、記憶に間違いはなかった。
ほどなく地上への階段に辿り着いた。電気が消えて真っ暗な地下道に光が差し込んできているのが見える。
「ここから出ましょう」
僕が先に立って階段を上る。エスカレーターは止まっていた。
「お前、何で知ってるんだ?ここはまだ地図がないどころか、ほとんど来た奴はいないはずなんだが」
「毎日来てますよ。なにを言ってるんですか」
地図がないとか何を言ってるんだかわからない。携帯の電波さえ通じれば現在位置なんて一目瞭然だろうに。階段を上がって外に出る。
そこにあったのはいつも通りの新宿のビル群だった。目の前には伊勢丹やビックカメラがあり太陽に照らされている。外の風が心地いい。
停電で大混乱、というのをイメージしていたが、特に混乱は見られない。
変わらない風景に少し安心した。
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