第2話 20年の恋が冷める理由

 201X年1月10日———

 私は20回目の誕生日を袴で迎える。

 なぜなら、今日は成人式でもあるからだ。

 

 親友だった美幸たちや、色んな同級生が声を掛けて、祝ってくれた。


「ちょっと、トイレ行ってくるね?」

「大丈夫美幸?」

「へーき、へーき」

 二次会でドレスアップした私達。

 美幸が居なくなったので、私はどうしようかなと周りを見回しているしていると、小さい頃によく見た不安そうな顔が大きくなってやってきた。 


「よっ…久しぶり」

「…んっ。久しぶり」

「ここいい?」


(そこは、美幸が座っていた席)

 そう思ったが、私はそれを言わないでいると、太一が座る。


「5年ぶりか?」

「そーじゃない?」

「そっか」

 私の心は塞がれてしまっているようだ。


 素直になれない。


「なぁ、美穂莉。昔の10年前のこと…本当にごめん」

 太一が謝ってきた。

「俺さ、あの時ガキだったからさ…。急に言われてびっくりして照れたっつーか、全然余裕がなくてさ…。それに、美穂莉が傍にいてくれるのが当たり前だと思ってたからあんな適当なこと言っちゃって、本当に後悔してるんだ…」

 私の反応を見ながら、丁寧に言葉を選びながら太一は喋る。 


「本当にすいませんでした」

 深々と頭を下げる太一。


「うん…いいよ。許す…」

「ほんとに、良かった~」

 太一は物凄い嬉しそうな顔をする。


 太一は美幸の飲んでいたお酒をぐびっと飲んで私の手を握る。

「付き合ってほしい、美穂莉。昔からずーっと、お前が無視してきた間もお前のことが好きだった」

 私の心の中で蓋をしていたものが割れた気がした。

「そんなこと…こんなとこで、急に言われても…」


「じゃあ、待つ」

 太一はスマホを取り出す。

「連絡先、交換しよーぜ」

「…それくらいなら」


 太一と連絡先をQRコードで交換する。近づく距離。

 私は自分の息使いに気を使おうとするが、心臓は激しく動いていて、お酒のせいなのだろうか、夢のようだ。



「でも、美穂莉が30になっても独身で、いい人いなかったら結婚してやるから」

 また、私の手をぎゅっと握る太一。

 私は『結婚』という言葉に心臓音が大きくなるのを感じる。


「でもって何よ…それに結婚とか重いし、30まで待つって…。そういうのって、まず友達何人かとか、2人で何度か遊びに行ってとかするもんじゃないの…?」

 私はちらちら太一を見ながら話しをする。


「ごっ、ごめん。俺そういうのもあんまりなかったから…」

 しゅんっとする太一。それを見ていじらしく思えてくる。

「俺、実は、今日———」


「あー私の飲み物、無くなってるー」

 酔っぱらった美幸が帰ってきた。

「あっ、ごめん。俺が飲んじゃった」

「ふ~ん…」

 美幸がトントンっと自分の唇を指でリズムを取る。

 それを見て、太一は恥ずかしそうな顔をする。


「あれれっ、そのリアクションって…もしかして、太一君ってど~て~?」

 その言葉を聞いて私の手を握っていた手の力が強くなる。

「えっと…」

「へぇ~」

 

「太一君かわいい~」

 そう言って、美幸が太一に抱きつく。

「えっ、えっ?」

「あーっ、二人とも、手なんか繋いでいい感じだった?」

「ううん、そんなことはないよ?」

 私は手を振り払い、笑顔で美幸に応える。


 

「太一く~ん、ダメだぞ?美穂莉には彼氏がいるんだから。そんな距離は…めっだぞ?」

「えっ」

 太一が驚いて私を見るが、私は彼に目を合わせることはできずに、下を向く。

「んだよ…俺、一人で浮かれて…バカみたいじゃん」

「ちょっ…太一」

「俺、帰る」

「待ってってば、太一」


「えー帰っちゃうの~?ってか、わたし~、なんか変なこと言ったぁ?」

「いいや、ありがとう。美幸さん」

 太一は寂しそうな笑顔で美幸だけを見て、振り返って行ってしまった。

 それから私達のトーク画面に文字は埋まることは無かった。

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