第3話

こんな関係が始まって1年が経とうとしている。

あっという間な気はしていたけど、この関係は別に変化はない。

週末に会って、仕事やたわいもない話をポツポツして、ホテルで一夜を共にする。


「ねえ、奥さん何か言わないの?金曜日に帰ってこない事。」

「もうあいつは俺の事そんなに興味ないだけだよ。」

そう言って祐希はいつも奥さんの事をはぐらかす。

まるで奥さんの事には触れてほしくないかのように。

最初の頃は所詮そのようなものだと思っていても、時が経つにつれ眠っていた私の中の欲が顔を覗かせる。


あなたにとって私は何なの?

そんな事都合良く会える女としか思ってないだろう。

でも、求めてしまう。

この先の展開を。


「ねえ」

「ん?」

「なんで、私なの?」

思わず口にしてしまったのは、返答に困るような、面倒くさい問いかけ。

自分が求める答えなんて出てくるとは思ってないのに。

祐希は少し視線を外し、タバコに火をつけた。

朝日に照らされながら、吹かされたタバコの煙が空気の中に消えていく。

その手には銀の輪が存在を発揮させるかのように輝いている。

きっとそれを外してくれないのは彼の最後の自制。


「もう少し、待ってくれないか?」

不意に言われ、我に返ると困ったような笑みを浮かべた祐希が居た。

「祐希?」

「綺麗だよ、真季。」

祐希はそう言うと、私のおでこにキスをし、ベッドの中に再び誘い込んだ。


いつもそうやってスキンシップが始まればその話題は触れてほしくない合図。

こうすれば私が絆されると思っているのがずるい。

それに私が絆されているから仕方ないのだが。

でも、私は見たくない。

その左手に輝いてる銀の輪を。


「ねえ。」

「どうした?」

「これ、外して。」

私は祐希の左手に触れる。

「真季?」

「私と会ってる時は、私だけ見て。」

私の縋るような言葉に祐希は笑みを浮かべ、手を絡めた。

「言われなくても、ちゃんと見てるよ。真季の事。」


その言葉はその場しのぎなのかもしれない。

銀の輪はキラキラと変わらず彼の左手に嵌められている。

「愛してるよ。」

そう言って重なった唇からは、誤魔化すように吹かされていたタバコの香りがした。


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