第2話

終業時間になり、帰り支度をしていると隣から元気な声が聞こえた。

「真季先輩お疲れ様です!」

「・・・・お疲れ様。」

隣を見ると、仕事の部下である俊介がキラキラした目でこちらを見ていた。

「今帰りですか?良かったらこの後ご一緒にご飯でも」

「そう言って奢ってもらうつもりでしょ?

その手には乗りません。」

「違いますよ!ちゃんとしたデートの誘いです!」

「尚更パス。」

「先輩〜・・・」

あからさまに悲しそうな様子を見せる俊介に少し笑いが込み上げてしまう。


こんなに感情が現れる人だったら、こんなに辛くなかったのかな。

ふと彼の姿が頭の中に浮かんだ。

「先輩大丈夫ですか?」

「え?」

「なんか、すごく今悲しそうな顔してました。」

「そう?少し疲れてるみたい。また今度ね。」

「分かりました・・・って、行ってくれるんですか!?」

「その気になったらね。」


俊介の気持ちは薄々気付いている。

私に好意を寄せてくれている事も。

その気持ちに応えた方が自分にとっても楽な選択肢であることも分かっている。

でも、私は忘れられない。

頭の中に居座る彼の存在を。


会社を出て電車に乗り、身近な人が降りない少し遠くの人気のない駅に降りる。

改札を抜けると、寂れたコンコースが広がっている。

そこの喫煙所が、いつもの待ち合わせ場所。

足を進めると、そこには見慣れた大きな背中が見えた。


「・・・・祐希。」

名前を呼ぶと祐希は振り返り、笑みを浮かべた。

「今日は早かったな。」

「金曜日だったから、早めに切り上げてきたの。あんまり遅いと誰かさんのタバコの本数増えちゃうから。」

「それは大変だ。待ち焦がれて肺が真っ黒になったら責任取ってやれよ?」

「はいはい。」

「・・・・会いたかった、真季。」

そう言うと祐希は私を抱きしめた。


それは本心で言っているの?

今日の朝だって、今嵌めている指輪の相手も同じように抱きしめてきたはずなのに。

そんな感情を押し殺し、私は祐希の首に腕を回した。


今は、今だけは、この人の1番で居させてくださいと願うように。

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