銀の輪

舞季

第1話

ゆっくりと時が流れている。

そんな気がした。

旅先の朝。仕事に追われることのない、心地よい朝。

朝日から逃れるように寝返りを打つと、隣の体温とぶつかった。


大きく広い背中から静かに聞こえる寝息。

確かに彼は今、私の隣で寝ている。

私は彼より早く起きれた事に嬉しさを感じながらも、こちらを向いていない事に寂しさを感じていた。


起こさないようにと思いながらも、私は彼の背中に鼻を擦り付けた。

すると彼の肩がピクっと揺れ、こちらを向いた。

「・・・起きてたのか。」

「ごめん、起こしちゃった。

・・・・おはよう。」

申し訳なさそうに言いながら、彼の頬にキスをした。

「おはよう。まだ早いんじゃないか?」

「でも、せっかく泊まりなんだから、どこか行かないの?」

「もう少し寝かせてくれ。やっとゆっくり休みが取れたんだ。」

「分かってるけど・・・。」

少し悲しげに私が呟くと、彼はクスッと笑いながら優しく抱きしめた。

「少ししたらちゃんと相手してやるから、な?」

「・・・・分かった。」

「良い子だ。愛してるよ、真季。」

彼は私にキスをすると抱きしめたまま、また寝息を立て始めた。


私は彼に愛されている。

でも、これは私がそう思いたいと思ってるだけじゃないかと時々思ってしまう。

抱きしめられた彼の左腕を持ち上げる。

何も付けられてない私の左手と、シンプルな銀の輪が付けられた彼の手が重なった。


「何夢見てるんだか、私は。」

どんなに愛しても、この人の一番には一生なれないのに。

私は記憶を搔き消すように彼の腕の中に潜りこんだ。


ずっとこの二人だけの世界が続けばいいのに。

この銀の輪が砕けて、私がこの人の一番になれたらいいのに。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る