結論

 ああ! なんて素晴らしい経験なのだろうか!

 身体が重力を忘れ、何もない空間に魂が行き着く。深海でも、宇宙でも味わえない至高の経験である(この感覚は回想であり、この経験を味わっている時の私は空っぽであった)

 幾千の世界が見える。母の胎内に存在していた頃はこんな体感だったのか。いや、もっと前だ。生命が量子として誕生した刹那の体感だ。


 ああ……………。


 私は、その瞬間、Edvard Munchの「マドンナ《Madonna》」を思い出した。思い出してしまった。

 その絵に感じてしまった、生(あるいは性?)と肉感には、マリアを連想させる力があった。刹那、私はある種の希望を抱いてしまったのだ。希望とは、肉体と魂を照らす光であり、闇とは反対の方に存在するものだ。

 私は結局のところ地球に生きる、一つの生き物なんだ。


 希望は「あのときの経験」を私に、僕に、俺に、思い出させた。


性、生命、ハヴァ、禁断の果実、赤子、記憶の固執、Orgasm、鉄の処女、不屈の心、ロミオとジュリエット、イトスギ、隣人、民主主義、TOKYO、『闇の絵巻』、蒼穹、地球は青かった、エイリアン、生命体、光合成、よ、夜の次には朝が来る(「懶惰の歌留多」)、人間は光がないと生きていけない。


(その間にも、無限に近い空想が脳内を蝕む)


 私は悟った。あぁ、そこに闇はなかったのだ。

 最初から闇はなかったのかもしれない。しかし、今宵私が体感した至高の経験は紛れもなく本物だったと思う。そう信じている。

 次に私が、闇に出会う時は生命が終わりを告げるときだろうな。何となくそう思う。

 その間に私は、耐えきれなくなって自死という選択をしてしまうことかも知れない。

 

 その時、正体不明の光が私を包み込んだ。それが何だったのか、理解はできなかった。白よりも、白色のまばゆい光は、闇の反対とは思えなかった。そう、白よりも白い、これこそ……


 考えて欲しい、眩しすぎるほどの光を。真っ白の世界を。

 その白しか存在しない世界は、私に新しい希望を抱かせた。

 真っ白の世界は闇となりうるかもしれない。

 私は、そんな呑気な想像をし、電燈の光が流れる都会の夜を下って行った。

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闇夜 五十嵐文人 @ayato98

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