第二章 心の在り方

その日は苦しいくらい寝苦しい夜だった。もう夏も終わったと言うのに。そして俺はまた夢を見た。

暗い室内だが、カーテンの隙間から微かに日の光が差し込んでいる事を考えまだ昼間だと仮定する。彼女、如月菜緒を囲むように同じクラスの女子生徒が周りに滞在する。体操服姿、体育の後か?どうやら虐めの現場らしい。彼女達は如月の髪の毛をハサミで切り甲高い笑い声をあげる。とても耳障りだ。場面が切り替わり教室の風景になる。如月の髪の毛は切られたままと言うことはその後の場面と予想できる。彼女は俺に何かを言い、教室を後にする。そこで俺は強い光と誰かの声で目が覚める。


「誰?」


「誰とは失礼ね。母親に対して!」


「ごめ」


「早く支度しなさい。学校遅れるわよ」


「うん」


俺は顔を洗いふと思う。母さんと話すの久しぶりな気がすると。そして、母さんが朝家にいる事を今更になって疑問に思う。


「母さん仕事は?」


「今日は休みよ。それより朝ご飯とお昼ご飯お弁当に詰めといたから持って行きなさい。明日も休みだからどこか出かけましょ?」


「うん。行ってきます」


「はい。いってらっしゃい」


久しぶりに母さんと話した。母さんの仕事上、遅くに帰ってきて早くに出て行く事が多いからだ。


登校途中で夢で見た面影を遠目で発見する。如月を虐めていたクラスの奴ら。名前は誰だっけ?とにかく、彼女達は要注意だな。


「よ、どうした遠巻きに女子を眺めて…は!?お前さては遂に恋心と言うものを学んだか!?俺は嬉しいよ!」


朝からうるさい奴に絡まれた。彼の名前は柏井翔。中学の時からこうやって絡んでくる男。


「うるさい。そして否定する。俺は学校に勉強に来てるんだ。ましてや恋なんて持っての他だな」


「ちぇー。弄るネタ増えたと思ったのに…」


校門前で彼女、如月に会う。虐めていた彼女達は先に行っており如月と鉢合わせる心配は無かった。


「お、おは、おはよう」


「おう、おはよう」


「如月さん!おはよー」


「…」ペコッ


如月さん前から俺にだけ無愛想なんだけど!!と小声で言ってくる翔は無視して、教室に向かう。


休み時間の度に離席する彼女らに気づかれないよう監視する。彼女達の情報が欲しいからだ。昼休みになっても彼女達からは目立った行動は無かった。

6時間目の体育、合同の体育で運動の苦手な俺にとっては地獄のような時間だ。翔は俺とは違い運動ができるので活躍している。今回はバスケと言うこともあり、翔の独壇場だった。ふと女子達に目を向けると彼女達と如月が一緒に出て行くところを捉える。

こっそりついて行き、小教室に入って行く。俺は気づかれないように小教室前で話を聞く。


「お前、柏井くんや木乃江くんの周りうろつくんじゃねぇよ!」


「え、えっと…」


「お前だよお前!なんで呼ばれたか分かってるだろ?」


「黙ってんじゃねえよ!!」


バンッ!!と言う鋭い音が聞こえ、彼女が押され壁にぶつかった音だと分かる。今出て行きたい衝動を抑え、携帯を起動させる。


「分からないみたいだから身をもって味わってもらおうかな?」


今だ。俺はガラッと小教室の扉を開ける。目を見開く彼女達。一人の彼女の手にはハサミと如月の髪の毛が握られていた。


「それでどうするつもりだったの?」


「これは違うくて…ごめんなさい!!」


そう言い残し彼女は廊下をかけて行った。それに続くように彼女の取り巻き達も彼女を追うように廊下へ。


「大丈夫だった?怪我してない?」


「大丈夫だけだ…どうして…?」


確かに、この事を夢で見たからとは言えない。そうでなくても信じてもらえないだろう。


「如月さんと一緒に出て行くの見えてもしかしたらって…迷惑だった?」


「全然。ありがとう」


「うん。それともう心配しなくても良さそうだよ。この出来事スマホで撮ったから。この映像どうするかは君に任せるよ」


「…」


彼女は少し考えて、その映像を消す事を選択した。そうするだろうと少なからず思っていたので驚きはしなかった。


「でもまたこんな事になったらあれだから連絡先教えて?」


「う、うん!」


彼女の笑顔を見れた。これに勝る報酬を今のところ俺は思いつかない。あれ?俺どうしてこんな事思うんだろう…

心にも少しの変化を感じる。それでもまだ、傷のある閉ざされた心の氷は溶けきらない。

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