第3話 ギルドマスター(3)
「———悪いんだけど、お金、貸してくれない?」
「え?」
ミリアに何を言っているんだ、という顔をされた。
そりゃそうだ、オレがミリアの立場なら同じことを思うだろう。
「悪いんだけど、お金を貸してほしいんだ」
でも、お金がない以上、貸してもらうしかない。
「———ますたぁ、お金を持ってないのに買い物に来たんですかぁ……?」
ミリアからは、ぐぅの音も出ない正論を言われる。
正論過ぎるけど、持ってないものはどうしようもない。
こんなことなら、アルジェも一緒に来てもらうべきだったな。正直、何も考えていなかった。
ダメなマスターでごめんよ。
「いつも持って来ているんだけどね。今日はその、財布を忘れたみたいなんだ」
「嘘つくなよ。お前いつも妹に払ってもらっているだろ。お前からお金払ってもらったことなんて無いだろ」
「おいッ、余計なこと言うなよッ!」
串焼き屋の店主が余計なことを言うのを黙らせる。
言っていい場合と言っていけない場合がある。今回は完全に後者だ。
「あはは、まぁ、後でアルジェから借りて返すからさ。ここでの買い物のお金は貸してくれないかな?」
「———結局アルジェさんにお金を借りて返すんですかぁ……?」
ミリアが信じられないものを見るような目でオレを見てくる。
うんうん、オレも気持ちはわかるよ。オレも同じこと言われたら、同じような目をすると思うもん。
でも、今は妹も弟もダンジョンに行ってしまっていないんだ。貸してくれそうなのはアルジェだけなんだ。そう、これは仕方ない?ことなんだ。
「———まぁ、いいですよ。それにアルジェさんからもお金を借りなくていいです。返してくれるまでしばらく待ちますよ」
「ありがとう! 本当に助かるよ」
「その代わり~」
「その代わり?」
「今度1つ、わたしのお願いを聞いてください」
ミリアは良い笑顔で指を1本立てながらそう言ってきた。
「もちろん構わないよ。でもオレのできることは少ないよ」
「大丈夫です。ますたぁにしか出来ないことですから」
ニコっと笑顔で答えてオレの代わりにお金を払ってくれている。
ギルドで働いてくれている職員は皆いい人ばっかりだ。
たまに困ったことをする職員もいるが、根は良い人たちなのでしっかり仕事はしてくれている。
ギルドで一番仕事をしていないのはオレだと思う。
ミリアはギルド職員になって半年程になる。
オレが一年程前にギルドマスターとしてギルドを再建する時、まずギルド内部の見直しを行った。
冒険者の等級の見直し、ダンジョン素材や魔物素材の買取強化、冒険者と商会との斡旋及び仲介などの色んな事を見直した。
見直しについては漫画やアニメの知識があったので苦労はしなかった。
オレはこうしたらいいんじゃないかなって案を出していただけなので、それを実現するために苦労したのはギルド職員だったと思う。
その時の第一期職員メンバーには本当に感謝している。
最初は三十名程度しか職員がおらず、かなりの重労働だったのにも関わらず、誰も辞めずについて来てくれたのだ。
冒険者ギルドの信頼が徐々に回復し、金銭的な余裕も少しは生まれ、新たな職員の募集を行ったのが半年前だ。
その時に雇った第二期職員メンバーの一人がミリアなのだ。
どうしてもギルドで働きたいと言って熱い想いを口にしていたのを覚えている。
少し甘えたなところもあるけれどその言葉通りしっかり働いてくれている。
対して給料も高くないのに本当にギルドの皆は良い人たちだ。
◆
「ますたぁ、他にも何か買いますか? そろそろお金が無くなりそうなんですけど…」
「そうだね、これくらいあればいいかな。皆もお腹いっぱい食べれそうだね」
串焼きを買った後、他にも何店か巡って食べ物を購入している。
もちろんお代はミリアに出してもらった。
一回お金を出してもらったらハードルは下がるもんだ。二回目以降はミリアに言えば普通に支払いをしてくれていた。
うんうん、ダメ人間だな、オレは。妹たちが帰ってきたらお金を貰ってサッサとお金は返すことにしよう。
買った料理は、すべて≪
≪
ちなみにオレが習得しているスキルは、「料理」、「散髪」、「思考停止」だけだ。
戦闘に使えるスキルと言えば「思考停止」だけであるが、このスキルの効果は、極度の緊張状態になると思考能力が低下して現実逃避に走るという能力だ。珍しいスキルらしいが、正直あまり役に立つスキルではない。
なので、ギルドマスターのくせに基本的に本当に弱い…。
荷物持ちなら朝飯前で大活躍なんだけどね。
オレたちは買い物を終え領主の別邸の1つに向かった。
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