第2話 ギルドマスター(2)
ギルドに入ると受付前でバカ二人がお互い殴り合っているのが目に入った。
冒険者達は荒くれ者が多いためこのようなことは日常茶飯事だ。
ギルドマスターにさせられた当初は毎日が戦々恐々としていたが流石にもう慣れてきた。
いつもなら妹や弟達の力で解決しているがみんなダンジョンへレベル上げに行っており誰もいない。
オレだけだと力での解決は無理なので一人だと話し合いで解決することにしている。
「やぁ、ロイにクリス、今日も元気だね」
「おう、マスター! 危ないから下がってってくれや。今こいつをぶちのめすからさッ!」
「あんッ! ぶちのめされんのはお前だよッ!」
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてよ。ミリアも怖がっているよ」
「「えっ?」」
二人ともミリアの方を見て怖がっているのを確認する。
「だろ? よかったら別室で話さないかい?」
二人とも気まずそうな顔をして大人しくオレの後を付いてきた。
◆
「さて、二人がミリアを好きなのはわかっている。今回もクエストの受注を自分がして気を惹きたかったんだろ?」
「なんでわかんだよッ!」
「えッ! なんで?」
そんなこといつも見ていたらわかるよ。この二人が喧嘩する時はいつもミリアが近くにいるしさ。
しかし、アピールが子供なんだよな~…こいつらこれでも20代後半でオレより年上だって話だ…小学生かよ…。
「そんなことは見ていたらわかるよ。ただ、あれじゃミリアを怖がらせるだけで逆効果だ」
二人とも少しは自覚があったのか暗い顔をして下を向く。
「君たちはもう少し相手のことを考えてあげた方がいいよ。好きな子に嫌われたくはないだろ?」
二人は、さらに暗い顔して下を向く。
「まぁまぁ、しかし君たちも悪気があったわけじゃないのはオレもわかっているよ。そこでだ! オレもミリアと上手くいくように少し手を貸そうじゃないか?」
「本当か?」
「流石、マスターだぜ!」
「あくまでも手を貸すだけだよ。あとは二人で頑張ってアピールするんだ。もちろんミリアが嫌がらない方法でだよ」
「もちろんだッ!」
「ありがてぇ」
「しかし、すぐにでも手伝ってあげたいんだがオレは少し領主様にお手伝いを頼まれてしまっていてね。二人の手伝いができないんだ」
「なんだよマスター、水臭いなっ」
「オレらが手伝ってやるよ! そんな手伝いさっさと終わらしてしまおうぜ」
「いいのかい!それなら凄く助かるよ」
「当たり前だ。マスターには世話になっているからな」
「その代わり終わったら頼むぜ」
「ありがとう。ミリアの方はもちろん任せてよ」
よし、単純な奴らでよかった。
オレの本当の狙いはこの二人を手伝わせること。
この二人は恋愛下手なバカだけど実力は問題ない。こう見えて二人はそれぞれ光魔法と火魔法を使える魔法剣士なのだ。
二人の恋愛レベルは1しかないけれど単純な戦闘レベルなら30近くあり、オレよりもレベルが高い。
ちなみにオレのレベルは18しかなく一般兵より少し高いくらいだ…。
「さて、それじゃ話も決まったし、さっそく手伝ってもらおうか」
「おう、任せな」
「さっさと行こうぜ」
「あっ、さっき壊した椅子や机の費用は今度のクエスト達成時に引いておくから」
◆
「二人とも領主の依頼を手伝ってくれるってさ」
「……なんで、喧嘩の仲裁に行って二人が依頼を手伝ってくれることになるんですか?」
アルジェがジト目をしながら不思議そうに問いかけてくる。
「まぁまぁ、色々あるんだよ。ロイとクリスなら光魔法と火魔法が使えるし、ちょうどいいしね」
「おう、マスター、ちょっといいか?」
「ロイか、どうしたの?」
「さっき話をしてた領主からの依頼だけど、パーティーメンバーも手伝ってくれるってよ」
「それは助かるよ。じゃ、準備が出来たら入り口に来てくれ」
「おう、了解」
「魔法が使えるのはロイとクリスの二人だけど、ロイのパーティーメンバーが手伝ってくれるみたいだから他はいいかな」
「よくあのパーティーが手伝ってくれることになりましたね。正式にロイのパーティーに依頼を出していたらそれなりの依頼料が必要ですのに……」
「二人とも少しアレなところがあるけど話せばいい人だよ」
「流石ますたぁです! すごいですッ!」
キラキラした目でミリアがオレを見てくる。
可愛い笑顔にキラキラした瞳にロイもクリスもやられたのだろう。
「そうだ、領主のクエストだけどミリアも手伝ってくれないかい?」
「えッ? わたし、戦闘能力0ですよ??」
「大丈夫。今回の依頼はかくれんぼだから。隠れている子を探すだけの依頼だよ。それに手伝ってくれたらご飯を奢るよ」
「はいッ! いきますッ! ますたぁのこと手伝いますッ!」
良い笑顔でシュピッと手を挙げて返事をしてくれる。
「ありがとう、じゃミリアも準備しておいで。汚れてもいい服にしておいで」
「はーい、すぐに準備してきます」
ご飯で手伝ってくれるなんてミリアも単純で可愛いな。
◆
「ますたぁ、わたしたちだけ別行動ですか?」
馬車に乗り、オレはロイ達とは別行動で移動している。
ロイ達には先に領主の別邸の1つに向かってもらっている。事情を把握しているアルジェもロイに同行している。
少し寄りたいところがあるのでこちらは馬車で別行動中だ
「ちょっと買っておきたいものがあってね」
「ますたぁ、何を買いたいんですか~?」
「食べ物だよ。グルリー通りに飲食の露店が多く出ているから、そこで何か買おうかなと思ってね」
「食べ物ですかぁ?」
「そうだよ。きっとお腹を空かして待っているだろうからね」
領主は朝からリナ様がいないって言っていた。きっとそれから隠れていて何も食べていないだろう。
何も食べずにひたすら隠れて待っていることは辛いはずだ。
露店のもので申し訳ないけどいっぱい買っておいてあげよう。
グルリー通りは、1キロメートルくらいに渡り、飲食に限らず多種多様な露店が並んでいる通りだ。朝方から夕刻くらいかけて色んな店が営業しており賑わいを見せている。
オレもここにはよく妹や弟達と買い物に来ており、少しは詳しくなっている。
どこのお店の食材の質が良いやら悪いやらまで把握しているつもりだ。
「まずは、お肉を買いに行こう」
グルリー通りは馬車で移動ができないため、馬車を停めておき徒歩で買い物に向かう。
やっぱり子供にはお肉だよね。串焼きや鉄板焼きを買っておいてあげよう。
美味しい露店も熟知しているから抜かりはない。
「おや、ソウ、珍しいな! 今日は妹や弟たちとは一緒じゃないんだな」
「今日はギルドマスターとしての仕事の一環だよ。串焼きを20本ちょうだい」
「あいよ、焼くからちょっと待ってな」
この串焼き屋はよく利用するのですっかり顔なじみだ。
露店にしては少し割高ではあるがたれも美味しくリナ様が食べてもきっと満足できるはずだ。
是非、リナ様だけじゃなくアルジェやロイたちにも食べてほしいので多めに買い込んでおく。
「はいよ、銀貨2枚だ。いっぱい買ってくれたから少しサービスしておいたぜ」
「ありがとう」
お金を取り出そうとして重大なことに気が付く。
オレ、お金持ってないや……。
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