美少女SF

「これが……究極の美少女……?」


AIが出力した「究極の美少女」の顔。その3Dモデルから、私は目を離せなかった。






 事の発端は半年ほど前、私の勤務するゲーム制作会社で持ち上がった企画であった。


 昨今のAI技術の応用範囲の拡大は目覚ましい。我が社も御多分に漏れず、キャラクターのデザインにAIを用いることにした。


 簡単に言えば、今まで作られてきた無数の美少女3Dモデルのデータをもとにして究極の美少女を作ろうという話だ。


 我が社が得意とするソシャゲは、多種多様な美少女を用意せねばならない。その製作コストを下げるための方策であった。


 部下となる技術者を雇って企画を進めていき、試運転が完了したのが昨日。その時は可愛らしい茶髪の美少女を出力してくれた。そこから一晩、大量のデータを読み込ませて学習を進めさせて―――


―――完全に学習を終えたAIが出力したのは、異形の美少女であった。


「これは……失敗でしょうか。でも」


「ああ。確かにめちゃくちゃな造形だ。


 部下と話しながら、出力された美少女たちを観察する。


 等身や手足の長さのバランス、顔のパーツの配置や胸の大きさも人間とは思えない造形。


 しかしそれでも、それらを見ると確かに、美しい少女であるという強い実感が湧いてくるのだ。


「これはおそらく、超正常刺激というやつです」


「なんだそれは」


「生物の脳に現実ではありえない刺激を与えると、特定の反応を返すことがあります。この刺激が超正常刺激です。


例えば普通のイラストの美少女だって、目の大きさとか獣耳とか、現実には有り得ない造形をしてるでしょ?でもそれを見ると私たちは『可愛い、美少女だ』って感じる」


「なるほど、つまりこれは」


 現実の人間の造形という縛りを超えて、「美少女を見ている」という実感を強烈に呼び起こすもの―――というわけだ。


「興味深いが……でもこれは、ヒロインには使えん気がするなぁ。いくらなんでも異形すぎる」


「じゃあ、ちょっと美少女度を妥協させましょう。学習させすぎたからこうなるんです。昨日みたいに限られたデータで学習させれば普通の美少女が、」


 そこで部下の動きが止まった。


「どうした?」


「いえ、その、昨日の試運転で出力した美少女を見返そうと思ったんですが」


 そう言って部下は、昨日出力した茶髪の美少女の顔を画面に表示して私に見せる。


「これ、?」


 昨日は確かに、可愛らしい顔だと思ったその顔。


 その顔を見て私は、何も感じなかった。


「……まずいですよ。多分この究極の美少女の顔を見たせいで、私たちは美少女という刺激に対して耐性がついてしまったんです。


 並大抵の美少女では、刺激が足らなくなっちゃったんですよ」


「それは……」


 我が社の主力はソシャゲ。美少女のイラストがなければ始まらない。


 そんな会社で、私は異形の彼女以外は何を見ても美少女だと感じられない。解雇はされなくとも異動は避けられないだろう。


「いや。逆に考えろ。これはチャンスだ」


「と、言いますと」


「一度これを見た人間は、このAIで生成された美少女にしか反応しなくなる。そのAIは我が社が独占できる。つまり」


 部下は、続きは言わずとも理解してくれたようだった。


 一度この究極の美少女を公開してしまえば、この世で美少女を創造できるのは我が社だけになる。少なくとも、世のイラストレーター達やライバル社が究極の美少女を再現できるようになるまでの間は。


「……分かりました。しかし、大丈夫なんですか」


「今までだって絵柄の流行り廃りなんてあっただろ。最近の絵柄に慣れた奴が昔の絵柄で描かれた美少女を見ても、もう美少女だとは思えん。それと同じことがちょっと急に起こるだけだ」


「大変なことになりますよ」


「承知の上だ。公開にあたって準備は必要だろうが、やるしかない」


 これから世の中には異形かつ究極の美少女が溢れ、ゲームもアニメも漫画も波乱の時代を迎えることだろう。


 しかし、きっと許されるはずだ。


 なんたって、


「可愛いは、正義だからな」


 呟いて、覚悟を決めた。

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