サッカーSF

 宇宙統一歴2020年。汎宇宙サッカー協会は重大な岐路を迎えていた。


 宇宙でのサッカーの普及に伴って、ルールを改定する必要が出てきたのである。


「えー、まずは、重力加速度の決定から始めさせて頂きたいと思います」


 委員長がなんとも沈鬱な顔で話を始めた。居並ぶ190惑星2衛星1恒星の代表たちは、おざなりな拍手あるいはそれに準ずる動作で賛同を示した。


「現状では競技を行う際の重力の強さは、サッカー発祥の地である地球の重力に合わせた数値となっております。現状維持案と汎宇宙標準重力に合わせる案が出ておりますが―――」


「最大の人口を持つ我が惑星としては、是非とも我が惑星の重力値に合わせていただきたいと思います!」


 早くも話の腰が折られてしまった。


「出たよ、あそこのメテオフォール外交が」


「だいたい人口の数え方からして独自基準の……」


「微生物の集合体だからって全身の細胞カウントしてたらそりゃ最大人口になるだろ」


 (自称)最大人口を有する新興惑星の強気の外交に対し、各代表からうんざりしたようなざわめきが広がっていく。そもそも紫色の粘液みたいな見た目なのにどうやってサッカーをする気なのか、おそらく彼ら以外の誰も分かっていない。


 ざわめきが収まってきたあたりで委員長が話を戻しにかかる。


「えー、予備委員会で検討された案の中から選んで頂ければと思います。では多数決に移りたいと思います……」


 多数決で決めたところ、汎宇宙標準重力に合わせることになった。そもそも重力発生装置はどれも強度を標準重力に合わせたものばかりなのだから、これは既定路線であった。


「えー次に、競技人数に関するルールの改訂を行いたいと思います。一部種族の間で、試合開始時点では11人だったはずが時間を追うにつれ分裂していく行為が常態化しているとの報告があります。


 試合中は常に選手は1個体としての形を保つようルールの追加を行いたいと思います」


「意義があります!我々の種族にとって分裂は、地球の方が歩いたりするのと同様の日常的な動作であります!したがってこれを競技中に行うのは、地球の方が競技中に走るのと同様の行為でありまして―――」


「えー、投票に移りたいと思います。試合中は常に、一つながりの個体としての形を保ったままプレイする規則を導入したいと思います。賛成の方は……」


 いちいち意見を聞いていたら終わらない、と察した委員長が強引に多数決に移る。この意見は賛成多数で可決された。


 このルールの抜け穴として、細い糸で繋がったまま分裂することで一個体としての形を保ったまま戦力を倍にする戦法が編み出され、次回の宇宙第三地区予選リーグは大荒れとなるが、それは別の話である。


「えー、では、次の議題に、移りたいと、思い、ます」


 いよいよ苦々しさ極まる表情になった委員長は、予備委員会では全く議論の進まなかった、最大の議題を議場に投げ込んだ。


「サッカーにおいて使ってはならない部位である『手』とは体のどこを指すのか、193種族のそれぞれについて決定する必要があります。


 えー、まずは地球人の場合について、現状の『手』の定義の確認からしていきたいと……」

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