第四章:世界忘滅
幕間2 かつて語り合った
俺は夢を見た。夢だと分かる夢を見た。
初めてこの世界に来た時、俺イチカは右も左も分からなかった。
誰とも会わず、ただ剣を手に灰化世界を歩き続けた。
行き倒れた矢先、その俺を助けてくれたのが、他ではないロッソだ。
当時の世界もこの世界と変わらず虚渦の脅威に晒されていた。
俺は黄昏舵の鍵剣たる力を持っていようと使う術を知らず、ロッソは知識を持とうと戦う術を持たなかった。
だから、互いに生き残るため協力し合った。
俺とロッソはまさに柔と剛のベストマッチな関係で虚渦に立ち向かい勝利する。
この勝利に勇気づけられた人々の協力もあってか、誰もが黄昏踏破船乗り込み、楽園を目指す。
ロッソの持つ知識や観察力は虚渦や黄昏の本質を紐解き、世界の真相に迫っていく。
この夢はロッソとの懐かしき会話だった。
「えっと今まで倒した虚渦が三体。第二渦は死生、第一渦は憐憫、第五渦は欺瞞を現しているってか?」
「うん、まだ仮説なんだけど、人間が生きている上での性質・知性あるが故に切り離せぬものが虚渦の姿形となった。向き合い、立ち向かい、他者と手を取り乗り越えねばならぬ人間の悪性や負の壁ではないかと、僕は思うんだ」
「人間が生きているが故に切り離せぬものか」
「人間、誰だって表と裏があるだろう?」
「まあ確かに、七つの美徳があるなら反対に七つの大罪ってのも俺の世界にはあるからな」
「それは興味深いな。世界が違っても人間の裏表は同じとは。今回の問題が落ち着いたら君の世界に行ってみたいな。聞く限りそっちの世界にも沢山の遺跡があるそうじゃないか」
「帰る方法すら分からんのにどうやって行くんだよ?」
「神様に頼むのもあれだし、僕は学者を目指している身だよ。なら自分の頭と足で見つけだすさ」
「もし行けたとして妹どうするんだ。エリュテに知られたら後が怖いぞ」
「もちろん怒られる前に逃げるさ」
「すぐトンズラするせいで、俺がエリュテに怒られるんだよ」
「ははは、妹の相手は任せた、相棒!」
「やめろ、妹なんて存在は一人で十分だ」
互いに妹持ちだからか、気苦労をよく語り合ったものだ。
嬉しかった。語り合うのは楽しかった。
友ができた。
孤独だった別世界で俺は友と呼べる男ができた。
「僕たちは進んだ。ただ生きるため前に進み続けた。けどさ、時折思うんだよね」
「思う?」
「たまにはギアの逆回転みたいに後退してもいいじゃないのかって」
意味がさっぱり分からなかった。
もしかしなくても、この時から既にロッソは自身が世界繰り返しの渦中にいると気づいていたのかもしれない。
<滅亡と新生の輪廻>、この世界の女神、そして黄昏狂わせる元凶ウバルの存在。
把握していたのか、否か、今では確認のしようがなかった。
ロッソはウバルの凶刃に倒れたのだから……。
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