第10話 イグニション!
<%二渦:狂骨壊乱アグガル>
――骨は不可分な死にして狂い壊れるもの。
黒き点より現れたのはあらゆる生物の骨という骨を繋いだモンスター!
目測だが新幹線を四本太巻きにしたようなサイズと長さだ。
「アグガル? こいつの名前か! でも二渦ってなんだ?」
言葉は通じぬようだからご丁寧に名前を教えてくれている。
この手の敵は一号とか二号とか、順番通りに来るんだが?
もっとも、俺の網膜に現れた赤い字幕といい、番号なんて相手には知ったことじゃないようだ。
アグガルは全身の骨を打楽器のように叩き、鼓膜を通じて俺に不快さを与えてくる。
そして全身をバランバランに弾け飛ばした。
「んな、自爆か!」
違うと先に走らせた言葉を俺の思考が否定する。
弾け飛んだ大量の骨は独自の意志を持つかのように宙を縦横無尽に飛翔する。
下手に目で追えば視点を乱され、予期せぬ箇所から不意打ちを受ける。
だから俺は大剣を構えたまま下手に動かず、その場に立っていた。
「うお、ビーム出すのかよ!」
骨の先端に黒い光が集った瞬間、俺に向けて一斉に放つ。
動かなかったことが幸運か、寸前で駆けだしたことで集中砲火は免れた。
先ほどまでいた地点は抉られる形で消失している。
普通、ビームって高熱による蒸発なのに、灰の大地をまるごと消し去ると来た。
「こいつめ!」
大剣で近場に飛び交う骨を叩き落とそうと多勢に無勢。
骨は大剣により両断され霧散するも本数が多い。
骨の一本や二本、消えてもアグガルには意味がないようだ。
「全部やるには骨が折れるぞ! 骨だけに!」
数えるのが面倒なほど骨の数は多い。
俺は飛び交う骨とビームを俊敏さで横に縦にと回避しながら打開策を考える。
カルシウム一〇〇%の飛翔体と非カルシウム一〇〇%のビームの二重攻撃。
飛翔する骨同士が結合しては巨大な鎚を作っては俺を叩き潰してくる。
「こいつ、さっきまで避難民を襲っていた癖に、正体曝け出した俺がそれほど憎らしいかよ!」
これ幸いなのは、骨全てが俺に攻撃を執拗なまでに集中させ、ティティスや避難民を襲う気配がないことだ。
迎撃の大剣を振るい両断しようと、骨の鎚の影に別なる骨が砲台として潜み、振り下ろした直後の隙を狙って極太ビームを放ってきた。
よ、避けきれない!
思考が鈍化する。周囲が急激にスロー再生へ陥る。
ああ、これがいわゆる走馬燈かよ。
走馬燈って確か、危機に陥った自分が記憶の中から打開策を見つけだすために起こる現象だったけ?
「いや、これは走馬燈じゃない!」
走るのは既視感。
全く記憶にないはずの光景が脳裏を駆ける。
初対面であるはずのアグガルと戦う俺が大剣の柄にある歯車を弾いては超高速で飛び交い、骨の群を翻弄している。
これは未来視か?
ええい、考える後だ!
柄に埋め込まれた歯車の一つが青い輝きを放ち出した。
使えるものはなんであろうと使う。
俺は迷いもなく青く輝く歯車を親指で弾く。
瞬間、歯車は他の歯車と噛み合いながら急激に回転すれば俺の思考を引き延ばした。
<
灰色の世界の中、俺は青き雷光となって縦横無尽に駆ける。
あらゆるものが急激に鈍化した世界。
瞬間移動をしていると俺に錯覚と興奮を与えてくる。
飛び交う骨やビームを置き去りにして、俺の身体は俺が望む以上の動きを実現している。
どんな原理か、地を蹴るどころか空さえ駆け、既に想像の域を凌駕していた。
「複雑骨折どころか粉砕骨折にしてやる!」
俺は大剣で骨を殴り、打ちつけ、突き入れては叩き切る。
その度に飛び交う骨は粉砕されるも数が多く、減らした気がしない。
「あ~やっぱり制限時間あるか!」
大剣の柄にある青き歯車がアラートのように明滅を繰り返している。
この手のブースト状態は制限時間ありの使用後デメリットがお約束。
強すぎる故に制限とクールダウンを設けなければ使用者及び機器が壊れるからだ。
俺は青き歯車を弾き、この超加速状態を停止させる。
「お、次はこれを使えと?」
青き歯車の真横にある赤き歯車が使用を促すように明滅を繰り返している。
大剣の機械部品は熱らしき熱を帯びておらず、次なる使用は問題ないようだ。
「青がスピードなら赤は!」
流れからして効果は読めた故、次に赤き歯車を親指で弾く。
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「おっりゃっ!」
大剣の振り下ろしにて生まれた剣圧は灰の大地に亀裂走らせ、離れた骨を散りも残さず抹消させる。
その間隙を突くようにビームの驟雨が放たれるも、全身覆った赤光の皮膜が弾き逸らす。
「やっぱりスピードの次はパワー系か!」
青の歯車と比較して赤の歯車はスピードが落ちるも攻撃力と防御力を著しく上昇させる。
特に防御は鉄壁。
左右から迫る骨が壁となって俺を圧壊させようとするも逆に触れるや否や粉砕される。
巨大な頭部が真上からの急降下で俺に噛みつこうと歯並びの良い歯もまた粉砕される。
俺には衝撃のしの字も伝わっていないからモノスゲー堅牢さだ。
「おいおい、ビームなんて効果ないっての!」
ここに来てアグガルは攻撃方法を変えてきた。
骨の攻撃をビームのみしては距離をとって一斉砲火を繰り返している。
当然のこと、俺の全身を覆う赤光の皮膜に弾き逸らされと意味をなさない。
同時にそれは遠距離攻撃を持たぬ俺にも言えたことだ。
振り下ろしの剣圧は確かに遠距離にカテゴライズされるも威力が高かろうと振りの大雑把さ故、精密さに欠けていた。
「と思うよな、骨プラモ?」
この大剣を使う度、秘められた機能がだいたい把握できた。
どうやらこの大剣には三つのブースト機能があるようだ。
一個、一個使えるなら……いやこれは後だ。
スピード、パワーと来て次に使うのは。
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黄色の歯車を弾くなり、大剣の持ち手は九〇度傾いた。
続いて刀身は剣先から根本にかけて真っ二つに割れる。
割れた刀身の間を山吹色の粒子がプラズマを持って幾重にも走り、輝きを増大させる。
アグガルが意図に気づいて分離中の骨を一カ所に束ねては堅牢な防壁を築いてきた。
だけどよ、それって意味あるのか!
「消し飛べええええええええええええっ!」
裂帛のかけ声は発射のトリガー。
太陽光を圧縮に圧縮を重ねて溜めこまれた山吹色のエネルギーは瞬きすら許さぬ閃光となってアグガルに迫る。
放った俺でさえチビリそうな禍々しさと神々しさを宿した巨大な光の柱は防壁ごとアグガルを包み込み、灰化世界を薙いでいく。
閃光が終息した時には頭部の骨一つしか残されていなかった。
「あ、こいつ、逃げる気だな!」
アグガルは俺に後頭部を向けて飛翔していく。
今逃がせばどこかで骨を補充して再襲撃してくるはずだ。
訳も分からず襲っておいて自分の都合が悪くなれば逃走とは、脳味噌ないのに頭回るじゃないか!
けどよ、頭部を残したのが悪手だぜ!
それが逃げるってことは頭部がお前の本体だって教えているようなもんだ!
「行くぞ、ダブルギア!」
青と赤のギア二つの同時使用。
実験も何もないただ直感で使えるか否か。
リスクもあるだろうが、走る既視感が使えると叫ぶ。
<ダブルギア・ベストコンボイグニション! 猛烈疾走のデストロイヤー!>
超速と重撃。
その二つを同時使用すれば!
俺の輪郭は赤と青の燐光に包まれる。
意識を置き去りにするほどのスピードで瞬く間にアグガルの頭頂部に追いついた。
気配で気づいたアグガルの頭部が迎撃のビームを放とうとするも、もう遅い。
意識が現状に追いついた時、俺は当惑することなく両手で大剣を力強く握りしめる。
「――これで、終わりだ!」
振り下ろした刃でアグガルの頭部を粉砕骨折した。
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