この世界の事と魔獣

そこから色々あって十ニ日もの月日がながれた。


その間。アキベヤはこの世界の知識を学んだ。


魔獣と呼ばれる普通の生き物とは違う

生物が存在していること



魔術師呼ばれる種族が人が対立している事


灰猫が言っていた

十二人の神様の中で

人はプロメ

と呼ばれる女神を一番信仰している事


アキベヤはその中で特に目を引いたのが

冒険者と探索者の違いについてだった。


探索者は


遺跡の探索や魔物の討伐を行なう

世界連合国が運営するギルドに所属する事でなれる職業だ。


探索者はD〜Sのランク制で


ランクによっては

ギルドで行なっている魔物の素材の買収を

普通より高く買い取ってくれたり

装備や回復ポーションを安く売ってくれたりする。


対して、


冒険者はシンプルな存在で


探索者ギルドに属さず魔獣を狩り

遺跡を探索したりする人たちの事だ


当然、魔獣の素材の値段は高くならず

ポーションも安くならない


大抵の場合、

冒険者は

変人か自信家がなるものという認識らしい


アキベヤはこの二つだけには絶対ならないと決めていたが


ラットの復讐についてや

記憶喪失や自分がナガビトである事を考えて


アキベヤは探索者にはならず

冒険者になった


そうこうしている内に


アキベヤがこの世界に来てから17日目の朝

プロメ神殿と街の間にある

カド草原にやって来た。


「確か、ここら辺だよな。」


今日はラットの教え無しで

一人でやる初めての狩りの日だ


「行ける頑張れ、頑張れ俺」


手に持つナイフが小刻みに震えるのがわかる


独り言で自分を勇気づける


装備も最近買った動きやすい軽装の物を

付けているし、

手のひら程の長さのナイフもしっかりと整備している


準備も整っている。


それなのにアキベヤの額から嫌な汗が流れた


(焦るな、落ち着け。行ける)


深呼吸をして自分を落ち着かせる

さっきより見通しが良くなった気がする。



「来た」


ガサゴソ、ガサゴソと音を立てて

茂みの奥から何かがアキベヤの前に姿を現した。



小さな子供と同じくらいの身長

萎れた魔女鼻に、濁った白い目

緑色のぶつぶつとした肌

手には何かのシミがこびり付いたら棍棒を

持っている


「ゴブリン」


カド平原に生息している下級の魔獣


此処を通りかかる

新米の探索者や

若く自信のある冒険者に襲いかかり、

持っている食料や水、

金品などを強奪して生きている魔獣


カド草原には

他に滅多に現れない中級の魔獣オークも

生息している。

アキベヤはそちらに出会わなかったことに

安堵した


それが油断だったのだろう。


いきなりゴブリンは棍棒を振り上げ、

飛び交った


アキベヤは向かってくる棍棒を体を

右にひねる事で避け

続けざまにナイフをゴブリの首の部分に

向ける


「いけ、、」


首にナイフが刺さる時、

アキベヤは恐怖から咄嗟に目を瞑ってしまった。


肉が食い込む音と

嫌な感覚が伝い


血の生臭い温度が頬に付着し

匂いが鼻にこびり付く。


(やった!)

確実に刺した手応えはある。


━━だが


「グギャ、グギャ」


確かに首を貫いた筈のゴブリンの鳴き声が聞こえた。


「え?」


目を見開く。

確かにゴブリ首には

アキベヤのナイフが突き刺さっていた

しかし

ゴブリンは血反吐を吐き体を震わせながらも

生きていたのだ。


(まずい、)


アキベヤはゴブリンに体勢を崩され

馬乗りにされている。


(攻撃がくる!)


ゴブリンは手に持つ棍棒を大きく振りあげ

相手の頭に目掛けて下げる。


「いっ━━!」


鈍い痛みが走り体が揺れる

頭から顔から血が溢れた。


ゴブリンは続けて何発も棍棒を振り落とす


痛みが段々と薄れ何も感じなくなる。


(このまま殴り殺される)


アキベヤは恐怖を感じた、目の前にいるのは不死身の化物ではないかと錯覚しそうになる


━しかし

それ以上ゴブリンは攻撃をして来ない。


「グギャ、グ、ギャ」


ぼやけた視界が手に持つナイフがうつる

その先にはだらだらと流れ続けるゴブリンの血が伝っていた


アキベヤはハッと息を呑んだ


(そうか、、無事じゃないんだ、

このゴブリンも

首にナイフが動くたびに奥に、、

それでも

死ぬ恐怖から必死に抵抗していただけ

なんだ)


ナイフを更に奥に刺しこむ


「うぉぉぉぉぉ!!」


死に物狂いで雄叫びを上げた。

可哀想だとは思わなかった。


獣の咆吼と共にアキベヤはゴブリンの首を

ナイフで貫く。


「グ、ギャ」


ゴブリンはナイフから抜け落ちた

死体が一匹

生存者一人

戦いの結果はあっさりと終わった


(一歩間違えば死んでた) 


眩しい太陽を血だらけの手で覆う

どこまでも辛くて、痛い勝利だけが残った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


額と装備からゴブリンの血を落として


「ゲボッ、ゲボッ」


アキベヤは

口から飲んだ水や昨日食べた料理を

全部その場にぶちまけた


「ひゅー、ひゅー」


一通り吐いたあとすっぱい味のする唇の拭き

心と呼吸をおちつかせる。


(慣れない)


生き物を殺す感覚を味わうたび、アキベヤは吐く。


「駄目だよな、こんなんじゃ」


━━成長できない

アキベヤは言葉を飲み込む


(ゆっくりでいい、焦って転んで死ぬ世界だ

だ。)


アキベヤは半信半疑に思いながらも

自分の加護が発動することを信じるしか無いのだ。


ナガビトはこの世界に転移した時、

神様から加護を貰える。

時間停止や空間支配といった異次元の加護が過去に存在していたらしい。


「何かある筈なんだけどなぁ」


手を握る。


超能力的感覚があるわけでも

強大な力を感じるわけでもない


アキベヤは自分の手には何もないように

思えた。


「帰ろう」


ポツリと呟いた言葉は

夕焼けに吸い込まれて消えた。

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