ヤモリ

「それじゃあまた会おう」

四足歩行の右手を器用にあげて

手を振りながら

灰猫は地面に浮かぶ波紋に潜って消えた。

「来て」

乱暴にRADはアキベヤの手を引いた

来た道を引き返し、

行くべき場所にたどり着くまで彼女は

止まらないだろう。


しかし何の冗談か、

裏路地の外には

鎧や剣で武装した大勢の人々に取り囲まれていた。


「来ましたぜ、お頭!!」


眼帯を付けた少女が声を大声を上げると

集団の中から一人の男が

アキベヤ達の前に立ち塞がった。


「久しぶりだなRAD元気してたか」

「ヤモリ、貴方まだ生きていたの」

驚愕と言わんばかりの声でラットはうねり声をあげる


「おう、このヤリ様が死ぬわけが無いからな」


余裕綽綽で返すヤモリという男は

普通の人よりも二回りも大きい大剣を持つ

巨人で

何故か

肩から上全体を隠す様に

鶏の頭を模したマスクをしていた


「まぁ此処であったが10年目、

今日こそ探索者ギルドに入って貰らうぜ」


「悪いけど今急いでる、そこ退いて」


「そういう訳にはいかねぇ、

今日は丁度150回目になる勧誘だからな

分かってるだろ?」


ひゅーひゅーと言う声援と共に

ヤモリは槍を構えた


「はぁ、、アキベヤ少し離れといて」


ラットも前屈み姿勢を整えた

「ちょっと待っ」


アキベヤは止めようとしたが

既に大通りにはラットとヤリを囲う人集りかま出来ており

アキベヤはその人混みに腕を掴まれ

外に弾き出された。


「おっアンタ、RADの隣にいた兄ちゃんじゃねぇか」


軽快な挨拶と共に

さっきの眼帯を付けた少女が酒瓶片手に

追い出されたアキベヤに近づいてきた


「貴方。誰ですか?」


「俺から俺はな

ヤモリ先輩の一番子分のハサミ様だ。

こう見えても冒険者ランクはB級なんだぞ」


少し酒臭い息を吐きながら凄いだろ〜っと

語るハサミを。

アキベヤは諸々を思い至った末に無視する

事に決めた。


「ちっなんだい、兄ちゃん無視かい冷たいねー

まぁフードを被ってるって事は訳ありなの分かるけど、

もうちょい凄いとかそういうのをよ」


(これ、多分無視すれば、するだけ話しかけて来るよな

てかどう見ても未成年だけど酒って大丈夫なのか?)


はぁとため息をつく


「貴方の話は十分伝わりましたから

そんな事よりあの二人止めないと」


少し焦り気味で言うアキベヤをニヤニヤと

笑いながらハサミは酒を飲んだ


「ぷはぁぁ

兄ちゃん無駄無駄、

RADとヤモリ先輩は会うたびに決闘

起こすから街の憲兵共もすっかり無視して

今じゃ始まりゃあ、お祭り騒ぎよ」


憲兵っというものを余り知らないが、

本当にこの状況をほっといていいとは

アキベヤは思わなかった


(止めないと)


少ずつ決闘の行われている人集りに進もうとした時だった

周りからうぉぉぉぉぉと歓喜が上がり


「いいぞ!ヤモリ。今週の賭け分頼むぞー」

「RADのほうも頑張れー!」

野次が飛びあう。


「おっ、兄ちゃん始まったぜ」


ハサミが三本目の瓶を飲むと同時に

円の中では

RADとヤリの激しい決闘が始まった。


ナイフと大剣がぶつかり空中に火花が散る。


ヤモリは見た目とは程遠い丁寧な手捌きで相手の動きに合わせて機械のように

上へ横へ下へ大剣を自由自在にぶん回す。


対してRADはヤモリの攻撃を

ナイフで受け流し


ヤモリの鎧の間に俊敏とも思える刃仕込み靴による蹴撃や

袋から取り出したナイフを投擲している


「相変わらず惚れ惚れする戦いだぜ。

兄ちゃん止めなくていいのかい?」


ケラケラと笑うハサミの言葉に

アキベヤも苦笑いを浮かべる

無理だ

アキベヤは悟った

中に入って止められるは確実に

無理だ


ヤモリの振り回す大剣に当たればアキベヤは一瞬で砕けるだろうし


RADの放つ蹴りやナイフを避け切れる自信は無く一瞬で穴ぼこだらけにされるだろう


つまるところアキベヤに彼らを止めるだけの力は無いのだ


悔しいとは思わなかった。


カラン。コロン。カラン。コロン


(ダイスの音?)


耳に入ったその音をアキベヤは知っている

この世界に来る時に聞いた音だ

アキベヤは音の方向に目を向ける


「んっどうした兄ちゃん顔色わるいぞ」


様子のおかしいアキベヤに気づいたのか決闘観戦を放棄してハサミは彼の体を揺らした



そして、アキベヤは硬い地面に倒れた

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