龍人の神社編

第1話 

 『園』のとある山の中腹に龍人が住まう神社が建てられている。園に越して来た住人、龍人の愧龍院が拠点として暮らしている。山は無名、神社にも名はない。ただ持家と書いて神社、龍人の持家神社とか言われたりする。

 神社の境内には何も供えられてない空っぽの小さな本殿、平屋建ての母屋、紅い塗装された鳥居。

 母屋の縁側で一人ぷかぷか煙管を吹かす龍人、神社の主である愧龍院きりゅういんが真昼から暇をもて余していた。

 真っ白な頭髪に四本も生えた赤い角、灰色掛った長い尾、狩衣と洋服が合わさった上着と袴。

 ぼんやりと空を見上げ、合間に煙管を吹かしていた。雲が指で数えられる程の大小様々な形がふわふわ流れ、暑くも寒くも感じない適温と緩やかな風が吹き時間が過ぎ去ってゆく。

 ただ、縁側に腰掛けている愧龍院龍人は起床してから憂鬱気味であった。

 過去の、悪い意味での記憶が悪夢として再生され寝起きを害している。これが日常化し毎夜毎夜眠りに就くとビデオデッキの再生機能のように働き悪夢を見せてくる。

 空をぼんやりと眺め、虚しい時間を過ぎ去るのをただじっと待っていた。鳥居からがくるまでは。

 「ヤッホー。元気かね~?ボケてない?漏らしてない?漏らしてたら教えて~」

 手をひらひらさせながらが近づいて来た。

 着物と洋物が合わさったような服。顔に狐面を被り、少年とも少女とも見受けられる体型は中性的なプロポーション。面の目元からは黄色の目が光る。

 「……曇天」

 嫌々しく名前を呼ぶ。

 「何だよぅ、様子を見に来た奴は皆自分を害す敵だと思うように名前を呼ばないでおくれよ」

 「現実に引き戻された。お前さんの使うくっせぇ香でだ」

 「えー、まぁそんな事より愧龍院。愧龍院の所に居候人を入居させたいのだけど」

 「断る」

 「訳を聞いてよ、訳を」

 よいしょ、と勝手に隣に曇天が座ってきた。悪感情を顔に出しそうになってしまうが取り敢えず、傾けることにした。

 要約してまとめると、『日本の北東北地方の廃れた某所に突如、現界した神霊を保護・即〝住人〟として受け入れる。居候先として媿龍院を検討として今日に来訪』と。

 「神霊がねぇ、……二点質問したいが。祓い屋なんて物は、人外側我々からしたら愉快犯or通り魔に近いな」

 そっ、そっと相槌する曇天。

 「まぁ、我々も人間にちょっかい掛けたりしたからその附けが回り回って人外イコール人間の疫病的存在になったしね。何より、件の神霊は近年生誕したばかりだ」

 「……突っ込みたい事が出たがまずはボクの質問二点に返答をしてくれないか?」

 「どうぞどうぞどうぞ、押し付け訪問販売みたいに来ちゃったからね」

 では、と咳払いした媿龍院が曇天に二つの質問を投げた。

 「まず一つ、居候先となるこちら側に拒否する権利は?」

 「…………」

 黙り込む、が首を横に降るので拒否権はないという一つ目の回答。これには聞こえるように舌打ちする。

 「二つ目だ、その神霊はどういった経緯のだ?」

 「…………うーん」

 首を傾け唸る。どう答えていいのかと悩んでしまう曇天。面の額部を擦り回し、言葉を絞り出す。

 「……『人造神』って奴しか、今はそれだけしか解っていないんだ」

 「人間ひとが?馬鹿な、もうそんな輩が……まだそんな輩が今もなのか?」

 「それしか解らん。……とにもかくにも、拒否権は実行出来ません。今回は強制実行なので……まぁ、ちょくちょく様子見に来るから、んじゃ」

 腰を上げ、早々とその場を後にしようとする。後ろから待てだの止まれだの媿龍院の声がするがそれを無視してすたこらと鳥居をくぐり、掛け降りていった。くぐる直前、「明後日連れてくるんで」と言うと脱兎の如く消え失せた。

 「……あ、────あの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

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