園~SONO~

Kelma

第0話 □□の夢

 龍人は毎夜同じ夢を見る。夢の内容は実際に体験したことである。雨の降る夢、瞼を閉じてから映るのは雨の降る夢だけ。

 その日は梅雨の中頃。不思議にも肌寒さを覚えていた。大粒の雨はどしゃ降りとなり川を氾濫させたり、乾いた田畑や蛙、ナメクジに潤いを恵む雨だった。雨は万能なのかも知れない。後生の文豪達によって心情表現として応用、豪族や平安の貴族達は雨を題材とした和歌や枕として唄ってただろう。

 龍人には前者の雨だった。心情表現の雨、人に化けてた術はいつの間にか解けて見下ろし佇んでいた。見下ろす視線の先には動かなくなった巫女が転がっていた。

 境内のど真ん中、堂の前に黒い長髪の巫女だった死体、龍人の白一色の髪と正反対の人間の乙女の死体が転がっていた。生気が抜け、斬られた傷を真上に仰向けに倒れ、装束服は紅く染まり雨に濡れぐっしょりとして、そんな変わり果てた乙女の姿。

 あっ。絞り出した言葉はそれだけだった。そこからか、ようやく時間が、止まった時計の針が動き出すように感情が込み上げてくる。同時にこれから一生消えやしない見えない傷が刻まれた。ふるふると唇が震え出し、ぼろぼろと目から涙が溢れてしまっていた。

 どうして。何で。そう問いかけるが、返答がない。死体なぞに問答する龍人は嗚咽、そして哀しみと怒りの二つの感情が込み上がる。

 誰が。どうして。何で。疑問符が浮かぶが深い哀しみにより、それは抜け落ちる。そこから目の前が暗くなっていく。悪夢ゆめの終わりだと言うように、悪夢は終わる。いつも、いつもそこで終わらせてしまう。


   ※


 「----あぁ」

 目覚めて上体を起こす。龍人・愧龍院きりゅういんの目覚めはいつも最悪から始まる。

 

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