第62話 前世
「お前たち、後のことは頼んだぞ」
「うえーん。嫌だよ。ご主人さま、死なないでよ」
「ポチ、無理を言うな。ご主人さまはもう何百年もそのお体に魔神を封印されてきて限界なのだ」
「だけど……」
「ポチ、頼む。俺の守ったこの世界を俺に代わって守ってくれ。俺はこの魔神を連れて死ぬ。こいつが復活しないように、魂まで連れていく」
17の頃、突然この世界に召喚された俺は今この体に巣食う魔神と戦った。過酷な旅だった。10数年の戦いの中で、たくさんの犠牲を出した。友も魔神に殺された。そして、最愛の人も俺をかばって死んだ。
やっとお前に会いに行けるなアルテイシア。来世こそお前と一緒になりたいものだ。
「ミケ、タマ、ハナ、ポチ、お前たちと過ごした数百年、楽しかったぞ。後のことは任せた」
「ご主人さま、お任せください。この生命続く限り、この世界を守ってみせます」
「ううう。うえーん。嫌だよー」
「ポチ、泣くな。必ずまた会える。魂は輪廻するんだ。必ず俺は転生する」
「うう、分かった。必ずまた会いに行く」
泣きじゃくるポチをその場に残し、運命の部屋へ移動する。
「ミケ、お前だけに前に話した件、くれぐれも頼むぞ」
「承知いたしました。失敗だと思ったその時には必ずあなたを殺します」
「すまんな。ポチたちには頼めないことだ。お前には辛い役目を任せてしまう」
「それが長兄としての責務でしょう。任務全ういたします」
「それじゃあ、ここでお別れだ。達者でな」
「ご主人さまも長いご任務お疲れさまでした。ごゆっくりお休みください」
「ああ、ありがとう。やっとアイシャに会いにいけるよ」
当時、召喚されたのもこの部屋だったな。もう数百年以上前の事になるが、未だにあの日の事は覚えている。
アイシャに出会ったあの日の事は忘れられない。
この国の王の娘であったアルテイシアはとても美しい女性であり、とてもたくましい女性でもあった。俺は召喚されたことよりも目の前にいるアイシャの美しさに驚いた。
そして、アイシャに請われ、魔神からこの世界を救う冒険の旅に出た。そしてアイシャを失った。君が望んだ平和は取り戻した。でも君のいない世界で生きる数百年は長かったよ。
いざ、魔神に止めをさしたまでは良かったが、そのままだとまた魔神は復活してしまう。その事を知った俺は、自分の体に魔神の魂を封印した。と同時に俺と魔神との次の戦いが始まった。俺の体を乗っ取ろうとする魔神。ずっとあがらい続けてきた。
魔神の魂を封印したためか、俺の体はそれ以降、年をとることが無くなり、怪我をしても一瞬で治るようになってしまった。不老不死という奴だな。
日々の魔神との主導権争いで精神を摩耗してきた俺は、あと数十年しか持たないと判断し、この魔神を後世に残さないために、なんとか始末できないかと研究を開始した。そしてこの考えに至った。
魔神の魂と俺の魂を融合させる。そしてその魔法が完成した。これで純粋な魔神の魂は無くなる。後の心配は融合した魂が転生した際にどうなっているのかだ。これだけはいくら予想しても実際に生まれてみないと分からない。
そこで、ミケにだけ任務を与えた。
「もし、転生した俺の魂が魔神に影響されていれば即座に殺してくれ」
俺の勘だが、恐らく最初のうちは魔神の魂の方が強すぎて碌でもない奴が生まれてくるはずだろう。ミケには過酷な任務を与えてしまったと思う。だがそうしなければ第2の魔神の誕生を許してしまう。徐々に魔神の魂をすり減らしていき、俺の魂の方が強くなるのを待つしか無い。
頼んだぞ、ミケ。お前だけが頼りだ。
「願わくば、争いのない世界で再びアイシャと共にあれますように……」
そう願いながら、魂融合の魔法を発動した。
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