第61話 祖先と子孫

「おお、お主は我の子孫の娘ではないか。久しいな」

 新狼だった幼女が俺の腕から飛び降り、ライカに話しかけた。

「む。中々の身のこなしですね。私に幼女の先祖はおりませんが、何故か貴方は見覚えがありますね」

 そりゃそうだろ。昔のお前にそっくりだからな。

「二人は知り合いか?」

「うむ」「いいえ」

 どっちだよ。

「何を言うか。ついこの間、我の眷属を主に預けたでは無いか!」

「?」

 ライカのこの表情は、「何言ってんの、この子」って感じかな。

「ライカ、ディックの事じゃないのか?」

「ディック?」

 おい、こいつ大丈夫か? 殴り合いのやりすぎで記憶障害になってるんじゃないだろうな。

「ああ、いましたねそんな犬が――あれは今何処にいるんでしたかね」

 そうだよな。こいつ一切面倒みてなかったもんな。アイシャと子供達が世話してたし。

「こやつに預けたのは失敗じゃったかのう」

「ああ、こいつに生き物の世話は無理だ。子供の面倒もみられないからな」

「私は旦那様の面倒をみるだけで手一杯でございますので。本当に手のかかるお人で困ります」

 なんか、俺のせいみたいな言い方をするけど、俺は風呂で背中を流すこと以上の要求なんてライカにしたこと無いぞ。

 俺から言わせて貰えば、お前の方が手がかかるんだがな。

「では、貴方はあの時の巨大な狼ですか?」

「そうだ、証拠を見せよう」

 そう言って、狼の姿に戻る。やっぱりでかい。体高だけでも俺の2倍以上ある。これが、1mくらいの幼女になるんだから、意味が分からない。

「我はまだ幼体だからの、ミケのように成体になるには後2万年くらいはかかるかの」

 ん。俺、今喋っていたか? それにしても万年単位ってすごく長生きだな。

「違うぞ、主人の思考は我ら使役獣には聞こえるのじゃ。逆もまた然りなのじゃが、ご主人は聞こえてないみたいじゃの」

 また分からない事が増えたぞ。使役獣とか思考が聞こえるとか。 

「使役獣というのは、その昔、前世のアル様が私達を作りだし、使役したのですよ。その子はアル様の最後の作品ですよ」

「へー、師匠の前世ってとんでもない事してたんだな」

 トウカが割り込んできた。

「そうですよ。トウカ様も無関係ではございませんよ。前世のアル様も異世界からの転生者だったのですから」

 うえぇぇぇ。前世の俺も転生者だったですと? まあ前世は前世だしな。今の俺とは関係ないだろ。

「関係なくは無いのですよ。アル様」

 君たち、いちいち俺の考えを勝手に読んで話を進めていかないでくれるかな。


「あなた、そんな事はどうでも良いでしょう。それよりも早くいたしましょう」

 裸のセツナが迫ってくる。

「セツナ。いい加減、発情期のフリは止めたらどうだ」

「――あら、いつからお気付きだったんですか?」

「お前が服を脱いだ時からだ。お前、見栄を張りたいのかもしれないけど、それ――おっぱいを少し大きくしてるだろう。あとウエストも――」

「あなた! 何を仰るつもりですか?」

 俺のセリフを途中で遮り、裸だったセツナがボロボロと崩れ落ち、きちんと服を着たセツナが現れた。

 その先程までのセツナは幻術で作った偽の氷像だった。

 俺の観察眼を舐めてただろう。こちとら一応武人だぞ。お前達のボディサイズの違いなんぞ、見ただけで分かるわ。

 セツナが怒りの表情で俺を睨んでいる。おっと、危ない危ない。女性の体の事をとやかく言うのは禁止事項だったな。


「俺が危なくなると感じて来てくれたんだろ」

「そうです。それなのにあなたときたら、女性たちと楽しそうに遊んでいらっしゃるんですもの」

 いや、あれは決して遊んでいた訳ではなく、真剣に死の恐怖を感じてたんだがな。まあ、分かってて言っているんだろうけど……。

「済まなかったな、セツナ。助かったよ」

 セツナの頭を撫でる。

「寂しかったですわ」

 セツナが俺に抱きついてきた。

「セツナにはつい甘えてしまう。子供たちのこと任せきりにしてしまって済まなかったな」 

「それはいいのです。私しか出来ないことですもの。でも、出来ることならばお側に居たかった」

 とまあ、こんなしおらしい事を言ってくれているのだが、長い付き合いだ。これも演技なのだろう。大体分かるが本音も混じっているので、黙って騙されておいてやるか。 


「セツナ、旦那さまから離れなさい」

「嫌ですわ。私は久しぶりにお会いしたのですから」

「それでは、我の方が久しぶりなので、ご主人を独り占めさせて貰おうかの」

「なんですか、貴方は急に……」


 もう、勝手にしてくれ、ワイワイガヤガヤと騒がしい。俺は自分の前世の事が気になって仕方が無いんだよ。

 レッドの発言の意味はどういう事なんだ? 前の俺と今の俺の関係とは何なんだ。

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