第59話 ヤバイ奴等
「なあ、ミリア。そろそろ助けてくれない」
ライカとトウカの戦いが激戦化して轟音が立ち上がっている。
「助けてもいいけど、約束が必要」
「国に帰ったらでいいか?」
「駄目」
うーん。求めてくれるのは夫として嬉しいよ。でもね。この街じゃできないしね。外でするのもね。
「だめ?」
そんなに可愛く言われると俺は断れないじゃないか。
「わかった。俺の負け――」
負けだと言いかけた所で俺の周囲一体が凍りついた。ミリアも氷像になっている。
まるで別世界に来たように静寂が辺りを覆い尽くす。この規模の魔法を使う奴なんてアイツしかいない。
なんて事だ。もうそんな時期だったのか。やばいぞ、悪魔がこの街に降臨した。
「あなた、探しましたわよ」
「セツナ。久しぶりだな」
「さあ、やりますわよ」
まずいぞ。発情期のこいつはいつもの理性が無い。
「待て、ここは外だぞ」
「大丈夫ですよ。全部氷漬けにしてますから。心配は無用ですよ。死なないようにしてますから。朝には開放されます」
そう言って、服を脱ぎだす。
「待てって。脱ぐんじゃない」
「さあ、あなたも早く脱いでくだいまし」
駄目だ、聞く耳を持ってくれない。
俺は全力で撤退に躍り出た。
「どちらに行かれるのですか?」
駄目だ。空を飛べるセツナを振り切れない。くそっ、何処に逃げればいいんだ。
「旦那様に手出しはさせませんよ」
「師匠に何をするんだ」
その時、セツナにライカとトウカが殴りかかり、一瞬の隙が出来た。
「お父様、今のうちです。こちらに」
おお、レイ君。それどうやってるの。顔だけが空中に浮いてるんだけど。おお、全身出てきたぞ。何だそれ。
「早く、こちらに入ってください」
レイ君に押されるがままに先程レイ君が出てきた場所に入る。
「レイ君、これどうなっているの?」
「これはこの空間を捻じ曲げて、外からは認識できない部屋を作ってるんです」
駄目だ。さっぱり分からない。バカを見るような目で見ないでよ。俺は普通の冒険者程度の知識しかないんだから。
「お父様でも分かるように説明したら、こちらから外は見えるけど、外からこちらは見えない様になってます」
「でも、あいつ等は匂いで――」
「大丈夫です。ここは匂いすら防ぎます。そしてお父様の匂いをつけた石を街の外に飛ばしましたので、それで誤魔化せるはずです」
おお、さすが宰相様。知将だね。でも、甘い、甘いよレイ君。君はお母様方を舐めてるよ。
「お父様が言ったように発情期の獣人の方々はいろいろとヤバいですね」
「だろ。レイ君そろそろ逃げよう」
「どうされたんですか? ここにいれば安全ですよ」
「いや、そろそろ嗅ぎつけてくるはずだ」
「そんな、まさか!」
いや、彼女たちを舐めてはいけない。目と鼻を騙しても駄目なんだよ。発情期のある獣人女性の恐ろしい点、それは本能なんだ。
恐らくここに隠れていてもセツナならば、見つけ出してしまうだろう。
「レイ君、ここから穴を掘って、街の外まで繋げてくれるかい」
レイ君であれば、それくらい余裕でこなせるだろう。
「まあ、父様が出ていかれるならそれで良いですけど、本当に行くんですか?」
「ああ、もうそれほど余裕は無いと思うぞ」
伊達に約10年ほどこの争いを続けてきている訳ではない。あいつ等の行動など大体読める。
恐らくは先程はライカとセツナが争う形になっていたが、この後は恐らく共闘してくるだろう。読めないのは凍ったミリアとトウカだ。この二人がどう行動するかが読めない。
「はい。お父様、外まで繋げましたよ」
「ありがとう。レイ君、生きていたらまた会おう。さらばだ」
「そんな大げさな。お元気で」
大げさじゃないんだよ。マジで死にそうになるんだからな。
レイ君が繋げてくれた穴を抜けて街の外へ。その瞬間、穴から爆風が上がる。どうやら隠れていた場所が見つかった様だな。間一髪セーフだったな。レイ君が無事に逃げてればいいけど。
全力で走って逃げる。5年前にミリアの里から帰りに出した速度を軽く超える速度で逃げる。うん、これはさっきの死の危機を感じたお蔭で一歩、限界を超えたな。
「だからまだ早いと言ったでしょ」
「お前な。ああいう事ならはっきり言ってくれよ」
レッドが現れて並走してくる。お前なんで付いて来れんの?
「アル様、もう少し速度をあげないと追いつかれますよ」
「ああ、何かヤバいもんが近づいて来てやがるな。あれは何だ」
「遂に出てきてしまいましたね。あれはヤバいですよ」
「だから何だよ」
「あれはライカさんのご先祖様ですよ。今は神狼と呼ばれている存在です」
「強いのか?」
「そうですね。私と同等くらいかと。今のアル様だと勝てないでしょうね」
つまりは俺よりお前の方が強いってことだよな。まあ薄々気づいてはいたがな。
「まあ、大丈夫ですよ。きっと戦いにはなりませんから」
「あん。どういう事だ?」
戦いにすらならないくらいの差があるということか。
「ほら、もう来ましたよ」
レッドが指す方を見ると巨大な狼がこちらに向かって疾走していた。
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