第58話 ヤバい街

「旦那様、私、我慢の限界なんです。そろそろお相手してくださいませんか?」

「何言ってるんだ。一昨日したばかりだろ。我慢しろよ」

「そんな! もう私のことは相手してくださらないのですか? いつもトウカばかり」

「だって、お前の相手疲れるんだもん。1回じゃ満足してくれないだろ」

「それは――だって、仕方がないじゃないですか、旦那様とするの気持ちいいんですから」

「お前、ついにそっちに目覚めてしまったのか。殴られて気持ちいいとか思ったら駄目だぞ。どっかの王族みたいになってしまうぞ」


 危ない、危ない。ライカがあっちの世界の扉を開きかけていた。

 もともとバトルジャンキーっぽい所はあったけど、いよいよ極めてきつつある。

 こいつと修行すると疲れるんだよな。それに時折ヒヤッとさせられる攻撃をしてくるくらい油断ならなくなってきた。素の状態でこれなんだから、あの赤いオーラを纏った状態になったらどうなるのだろうか。俺のこの体でも傷つけられるんではないだろうか。

 それに、今はトウカだ。こいつの育成は面白い。変な魔法を使うから戦っていても楽しい。空中に透明の壁を作ったりして急な角度から思わぬ攻撃を仕掛けてきたりする。これまでに無かった発想で魔法を使って仕掛けてくるから俺の修行にもなっている。

 これがライカ相手だと只の殴り合いになってしまうからな。もはや我慢比べしているのと変わらない。だからライカの相手はレイ君に丸投げしておく。

 レイ君は躱すのがすごく上手い。レッドを見ているかの様に華麗に攻撃を躱す。あのライカが相手でもスルスルと躱しているので、多分本気を出せばもっと凄いのだろう。

 知識といい、この強さといい、子供とは思えない。トウカ曰く、いろいろと抱えている危ない子だった様だが、俺の可愛い息子だ。この子のしたい事を助けてあげたいと思う。もちろん間違ったことをしたら鉄拳での制裁を加えるつもりではある。賢い子だからそんな事はしないだろうが。


「ねえねえ。旦那様、殺りましょうよ」

「殺らないよ」

「じゃあ、抱いてください」

「おう、そっちなら――じゃないわ。まだ昼間だし、子供たちだっているだろうが」

「えー。そっちだって、最近相手してくださらないし――まさか、そっちもトウカに」

「せんわ! 宿に泊まってないんだから、出来るわけ無いだろう。外でする気か」 

「私はそれでも全く構いませんけど」

 そうだった。こいつはこういう奴だった。

「とにかくしないぞ。するのは国に帰ってからだ」

「じゃあ、そろそろ国に帰りましょうか」

「帰らんぞ」


 まだ、旅に出て半年程度だ。まだまだ冒険したい。行ったことの無い国、場所がたくさんあるはずだ。強い奴もいるはずだ。

 いろいろな奴らと戦ってみたい。そしてトウカにも戦わせてやらないといけない。いろいろな経験こそがよい修行になる。


「よし、そろそろ修行は終わりにして出発するぞ」

 次の国まではもう少しだ。


「アル様、次の街に行くのは止めませんか?」

 レッドが不意にそう告げてきた。

「あん、何でだ?」

「あの街はアル様にはまだ早いと思うのです」

 何が早いんだ?

「死にますよ」

 いきなり、やばいことを言い出した。

「女や子供は大丈夫なんです。でも成人した男性は駄目です。殺されてしまいます」

「そんなにやばい奴がいるのか?」 

「あれはヤバいですね。なので私は失礼させていただきますね」

 そう言ってレッドは消えてしまった。


 あのレッドがビビって逃げ出すほど強い奴がいるのか。それは逆に燃えてきたな。どんなバトルが出来るのか楽しみだ。


「ぎゃあー」

 結果、俺はしっぽを巻いて逃げ出した。それはもう全速力で逃げ出した。

 最初はいい街だと思ったんだ。綺麗な町並みに、公園で談笑するお年寄り達。立派な宿。食事も美味かった。でも段々とおかしな事に気がついてきた。若い男性が街にはいないのだ。いるのは子供と女性ばかり。

 そして気がついてしまったのだ。無数の女性たちが俺の部屋を囲んでいることを……。

 俺は身の危険を感じ、宿の天井をやぶり脱出したが、屋根の上にも大量の女性たちしかも裸。こいつ等、まさか発情期か! なんて事だ。この街は発情期の女性たちが集まっていたのか。

 しまった。逃げ場がない。俺に群がる無数の女性たち。ピンチだ。殴ったら多分死んでしまうから殴れない。引き剥がそうにも片手しかないから難しい。やばい、ピンチだ。誰か助けてくれ。


「旦那様の子種は私のものですよ。あなた達にはあげません」

 俺の貞操が奪われそうな時、ライカが助けにきた。

「違う、それは私の」

 ミリアも来てくれたのか頼む助けてくれ。


「どうした、何で助けてくれないんだ」

 ライカもミリアも助けてくれない。

「旦那様、助けて欲しかったら、私とする約束をしてください」

「私とも」

 そんな場合じゃないって、もう服を剥がされそうなんだよ。くっ、こいつ等一般人のくせに何でこんなに力強いんだ。まるで生者に群がる亡者の様だ。


 くっ、今が限界を超えるときなのか。少々情けないが、これ以上の危機はないかもしれない。このままこいつ等の餌食になれば、死ぬまで絞り取られるだろう。

 レッドの言っていた事はこういう事か。くそ、騙された。はっきりと説明しろよな。

 やめろ、ズボンを脱がそうとするんじゃない。

「さあさあ、旦那様、どうなさるんですか?」

「師匠。どうする?」

 くそ、こいつ等。約束しないと助ける気が無い。

「あなた達、何で師匠を助けないのよ」

 と、トウカ。助かった。もうお前だけが頼りだ。

「トウカ、助けてくれ、この亡者共をどかしてくれ」

「邪魔はさせませんよ。トウカ」

 トウカの前にライカが立ち塞がる。


「遂にあなたと本気でやり合う時が来たようね。トウカ」

 いや、今はその時ではない。俺を助ける時だ。

「あなたとは良いライバルだったけど、これまで。さよならライカ。苦しまないように殺ってあげるわ」

 いや、トウカも乗らないでいいから助けて。


 嫁さんと弟子の本気の戦いが始まった。


 一方、こっちでは一般女性達と師匠のくだらない戦いも激戦化してきた。

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