第57話 父と子と弟子と

「では、お父様出発いたしましょう」

「ああ、行くぞ」

「このアル馬車で移動するのも久々ですね」

 煩いぞレッド。アル馬車言うな。

 レイ君達はワイズの所からレッドが強奪した馬車を使って移動していた様なので、俺たちも便乗することにした。ちなみに分かっていると思うが馬は俺だ。


 それにしても今朝はひどい目にあった。昨日当て身で眠らせた3人によってたかってボコボコにされた。結構本気で殴ってきたので、殴り返してやったら。今度は3人同時にかかってきて、手も足もでなかった。1対1なら何とか相手になるけど、1対3は卑怯だろ。勝てるわけがない。旦那と師匠にする仕打ちじゃないよな。

 昨日のは妻と弟子にする仕打ちじゃないって! 酔っぱらいにはしていい仕打ちなんだよ。

 

「レイ君、次は何処に向かう予定だったんだ」

「予定では西の方にある国を落とそうと思っておりました」

「どうしてそこを?」

「僕の調べた所ではここの国は王がなかなかな悪党です。民衆は圧政に苦しんでいます。王を倒し、我が国に取り込んでしまっても良いかと思います」

「へー、桜はいろいろ考えてるんだね」

 トウカが会話に割り込んできた。

「桃花みたいに脳まで筋肉で出来てないんでね。僕は次期国王として国を大きくしていかないとね」

「へー。じゃあ、私の手で未来の暗君が誕生しない様に、今のうちに息の根を止めておこうかしら」

 トウカがレイ君の頭をむんずと掴んで力を込めている。

「や、止めろ、僕は普通の人間なんだから、お前たちと一緒にするな」

「私の目はごまかせないよ、桜。あんた結構魔法使えるでしょ。昨日、私に殴られたとき、気絶したふりをしてたわよね」

 トウカも気がついてたんだ。成長したな。俺は嬉しいぞ。

 ただし、師匠である俺を殴ったことは許さんぞ。

「何のことかな? 僕は魔法なんて使ってないよ」

「そうね。騙そうたってそうはいかないわよ。この世界の魔法とは違うんでしょうけどね。私だって使えるんだから桜だって使えるんでしょ」

 そう言って、トウカは魔法文字を使わずに炎を出してみせた。

「ふーん。隠しても無駄みたいだね。そうだね。僕もその程度はできるよ」

 レイ君も魔法文字を使わずに風を起こし、宙に浮かんでみせた。

「やっぱりね。あんた、力を隠して何を企んでいるの? あんたが何を企んでいようとも、今度こそ私が阻止してみせるわ。師匠から託されたこの力で」

 ん。俺なんか死んだことにされてない。何にも託してないけど。二人共、俺はまだ健在ですよ。現在は馬代わりですけどね。


「アル様、なんだか楽しくなってきましたね」

 お前は本当にいろいろと楽しんで生きてるね。俺は二人の関係が心配だよ。


「僕が何を企んでいるのかだって、そんなのは一つだけだよ」

 レイ君の目的か。それは興味深いな。

「僕も父様みたいなハーレムを作るんだ。モフモフパラダイスだ」

 トウカがコケている。

 気持ちは分かる。これだけ盛大に国を大きくしていって、目的はハーレムを作ることだけなんて。


「レイ君、父親として君に言っておかないといけないことがある」

「何ですか、お父様。止めても無駄ですよ。僕はこの野望を実現してみせる」

 決意は固いようだな。

「ハーレムはしんどいぞ」

 今度はレイ君がコケた。

 仕方ないだろ。本当の事なんだから。

「2点だけ忠告がある。獣人の発情期に気をつけろ。絞り取られるぞ」

 レイ君の顔が青くなってきた。次の方が深刻なんだがな。

「回復魔法の使い手を嫁にしない方がいいぞ。こっちは魔力が尽きるまでエンドレスだ」

「父様、先程の事は本当の事でしょうか」

「ああ、経験談だ」

 俺の嫁にはその2点の両方を兼ねる化け物がいるからな。発情期のセツナの相手は俺でも死を覚悟した。

「お父様、僕は人間のお嫁さんを貰うことにします」

「俺もその方がいいと思う。レイ君にもアイシャの様な最高のお嫁さんが見つかるさ。この旅で探してみるのもいいんじゃないか」

「はい、父様。母様の様な素敵なレディを見つけてみせます」


 よかった。レイ君を苦難の道から救うことが出来たぞ。初めて父親らしい事ができたんじゃないのか。


「何を勝手に良い方向で落ち着こうとしてるのかしら。私の話は終わって無いのよ」

「ギャァー。頭が割れる。止めろ桃花。父様助けて……」

「トウカだって言ってるでしょうが」

「ギャー」

 すまん、レイ君。俺には止められない。試練の一部だと思って耐えてくれ。


 弟子すら止められん父を許してくれ。



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