第56話 可愛いは正義 酔っぱらいは悪

「それで、桃花はどうしてお父様と一緒にいるんだ。まさか新しいよめ――」

「違う、弟子よ。師匠の弟子として鍛えてもらってんの。それよりも桃花は止めて。その名前は捨てたのよ。私はトウカよ」

「じゃあ、僕の事もレイナードって呼んでよね。僕は桜じゃないんだから」

「わ、分かったわ」

「桃花、名前嫌いだったもんね。桃尻桃花。ぷぷぷ、僕だったら恥ずかしくて死にたくなるね、桜で良かった」

「うるさい。ホントだったら私の方が桜だったのよ。助産師さんさえ間違えなければ……。くっ」

「運が無かったね。桃花」

「トウカだって言ってんでしょ」

 トウカの拳がレイ君の鳩尾に突き刺さった。

「ぐは、そ、それは児、童、ぎゃく、た……」

 レイ君が倒れてしまった。

「トウカ、俺の息子に何てことを……」

「師匠、これは教育よ。こいつの教育は私に任せて貰います」

 うお、目が燃えている。

「お、おう」

 すまん、レイ君。今のトウカには逆らえん。妻たちと同じ圧力を感じるんだ。


「あ、師匠だ。やっと見つけた」

 講演を終えたミリアが俺を発見して抱きついてきた。

「ミリア、お前どうしたんだ。こんな事をして、無理してないのか」

「師匠成分補給中。しばらくお待ちください」

 ミリアから謎の返答があったので、暫く待つ。何だこの時間は。

「これは、戦略。効率よく国を落とすには娯楽を与えて管理する方が滅ぼすよりも効率がいい」

 え、パワーでゴリ押しのあのミリアが、戦略だと……。

「私は学んだの、力ではライカに勝てない。ではどうすれば良いのか」

 ほうほう。ミリアも日々成長しているんだな。ライカに力で勝つのはなかなか大変だからな。

「可愛いは正義。私は可愛さで勝負する」

 いや、それはまあ分かるけど。ミリアは可愛いし、何しても許してあげてしまうし。

「無理はしてないんだな」

「ん。これは演技。問題ない。テヘペロ」

 可愛いけど。可愛いけども……。

「師匠、私もついてく」

「来ちゃったもんは仕方がないからな。いいぞ。一緒に行こう」

「うん」

「ミリア、一緒に行くのはいいんだがな。歩きにくいからそろそろ離れてくれない」

「ダメ。半年分補給中」

「ミリア、ズルいですよ」

「ライカはずっと一緒だった。ズルいのはライカ」

「それとこれとは話が別です」

「違う。一緒」

「口で言っても分からないのなら、力ずくで行くまでです」

「望むところ」

「二人とも、子供の前だぞ、やるなら向こうでやりなさい」

 止めてもの無駄なのは分かっているので、せめて俺に被害が出ないところでやって来てくれ。

「ミリア、行きますよ」

「分かった」

「待って、私も行く」

 トウカ、お前も行くのか。

「サーシャも」

 サーシャもかい。


 女性陣が全員行ってしまったので、倒れたレイ君を運ぼうとしたら、急に起きた。

「お父様、私に触れないでください」

 そこまで、拒否しなくてもよくない? どんだけ男嫌いなのよ。レッドは何でいいの?


「なあ、エギル爺さん」

「おお、教祖様。本日のミリア様も最高でしたな」

 ノリノリだったもんな。爺さん。こっちはあんたがいつ倒れるかハラハラしてたんだぞ。逆にいい運動になっているのか?

「何処か宿に泊まりたいんだが、良い所知らないか」

「何をおっしゃいますか。教祖様をそこらの宿に泊めることなどできません。ぜひ王宮へお越しください」

「いいのか?」

「はい。是非」

「もう一度聞くぞ。いいのか? 王宮が壊れるかもしれないぞ」

「できますれば、壊さないで頂けますと助かるのですが……」 

 俺もその方が助かるんだがな。

「俺が壊す訳じゃない。あいつ等だ」

 先ほどから凄まじい轟音があがっている方向を指す。

 エギル老から汗が噴き出す。あれを見たらそうなるよな。

「どう致しましょう。ミリア様はもてなしたい。でも王宮を壊されると困ります。教祖様、どうすればよろしいですか」

 俺に聞かれても困るよ。レイ君の方を見る。レイ君も目を逸らした。

「では、私が一案提示させて頂きましょう」

「まて、お前は出てくるな。絶対に変な方向に誘導するつもりだろ」

「いえいえ、エギル様はもてなしたいが城は壊されたくない。アル様は城を壊したくないから喧嘩をさせたくないという事でしょう。大丈夫です。どれもかなう案がございます。エギル様、お耳を拝借いたします。ごにょごにょ」

「ほうほう、それは宜しいですな。そうさせて頂きます」



「どうしてこうなった」

 俺の前では皆が酒を飲みながら火(紅丸)を囲んでいる。街の外で。これいつもと変わらないやつ。酒があるかないかだけじゃん。俺は宿に泊まりたかっただけなのに。

 レッド、何処に行きやがった。いないぞ。あいつだけ宿に泊まってやがるな。

「いやー、教祖様。外で食事と言うものは楽しいですな。街の外で食べるのは初めてです。長生きはしてみるもんですな。はっはっは」

 エギル老は初めてだから楽しいだろうけど、こっちは毎日の事だからね。


 先ほどまでバトルしてた3人は仲良く杯を重ねていた。トウカはお酒に弱いのか、既に横になっている。仰向けで寝ると危ないので、後で横向きにしておかないといけない。

 ライカとミリアが飲みの対決を始めた様だ。周りの男どもが囃し立てている。これは不味いぞ。そろそろ止めないと恐ろしい事になる。


「おい、ライカ。お前ばっかり師匠と一緒に旅に出やがって。いつもいつも、ズルいんだよ。分かってんのかコラ」

「うえーん。ごめんなさーい。ミリアさん、怖いよー。えーん」

「おら、泣けばいいと思ってんのか。ビービ―とウルセエんだよ」

 ほら、始まってしまった。ライカもミリアも酒ぐせが悪いんだ。ミリアは絡み酒&怒り上戸になる。

「えーん。脱ぎますから許してくださいー」

 そして、ライカは泣き上戸&脱ぎ上戸だ。

 脱ぎだしたライカを見て、男たちが囃し立てる。止めた方がいいよ。

「えーん。見ないでください」

「お前らもうるせえんだよ」

 男たちが次々と吹き飛んでいく。ほらね。酔ったあいつ等に近づくもんじゃないんだよ。ちなみにセツナは酒にめっぽう強い。あいつが酔ったのを見たことがない。

 昔、アイシャに会うためにこいつ等を酔いつぶそうとしたが、セツナのせいで不可能だった。あの時は二人でヤバいぐらい飲んだなぁ。結局俺が負けてリバースした訳だが……。


 そろそろ、トウカを助けとかないとヤバいな。あんな所で寝てたら、風邪をひいてしまう。


「トウカ、起きろ。こんな所で寝ると風邪をひくぞ」

「んあ? あー。師匠がいっぱいだ」

 酔ってるね。トウカさん。

「そんなに酔っぱらうまで飲むなよ」

「酔ってないですー。ちょっとふわふわしてるだけですー」

 酔っぱらいは酔ってないっていうものなんだよ。

「ほら、抱えてやるから、暖かい所まで行くぞ」

「やだ、やだ。抱っこ。抱っこしてくんなきゃやだー」

 うわ。うぜえ。こいつも酒癖が悪い類か。仕方がない。抱っこして運ぶしかねえか。

「やったー。わーい。たかーい」

 おい、暴れるな。片手で抱っこは難しんだぞ。

「お礼にちゅーしたげる。ちゅー」

 ぶちゅっとキスまでされてしまった。こいつキス魔も混合か。


「旦那様がトウカとチューした。私捨てられちゃうんだ。えーん」

「師匠、私というものがありながら、許せん」

 二人が俺に迫ってくる。

 さっきまで暴れてたのに、なんでそんな所はピンポイントで見てるんだよ。

「もう一回する? ねえ、する?」


 あーーーー。皆、煩い。酔っ払い共は寝てしまえ。当身を3人に食らわして眠らせる。うん、俺も成長したな。きちんと手加減出来ている。


「お父様、何気にえげつない事しますね」

「パパ、今のは駄目だよ」

「父ちゃん、明日母ちゃんに怒られるぞ」


 さて、旅に出る(逃走する)とするかな。


ーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは、財布を会社に置き忘れた作者です。

昨日、取りに行ってみましたが、やはり誰も出社しておらず、鍵は開いてませんでした。

僕の鍵? 財布の中です。

お金は別にいいんですよ。困るのが免許証と保険証。何処にも行けないよー。


と言うことであとがきです。


なかなかの酒癖の悪い3人でしたね。

でも、思ったことありませんか。酔ったぐらいで脱ぎだす奴なんているのかよと。


いるんですね。これが。

あれは眼福でした。ご馳走様です。

あの方は今何をされているのかしら。


年末年始、お酒の飲み方には注意しましょうね。


因みに僕は酒もタバコもしません。

女とギャンブルは……。

多分しません。

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