第6章 魔王誕生
第54話 アイドル登場
「うん、トウカもなかなか様になってきたな」
「ほんと? 師匠の教えのお蔭ってやつだね」
トウカを最強に育てると約束して三か月、あれからトウカは俺の事を師匠と呼ぶ様になり、変な言葉使いも止めた。修行に取り組む姿勢も良くなった。貪欲に強さを求め、毎日ライカと殴りあっている。そっちの方が良い修行になってないか?
二人とも強くなったなあ。俺もう勝てないんじゃないかな。
「そんな事無いと思いますよ」
「どうしてそう思う」
「アル様の本来の力はそんなものではないんですよ。貴方は優しすぎる。そして甘すぎます。それが本来の力を封印してしまっています」
「ふーん。まあいいよ。俺は最強を目指してないからな。このままでいいさ」
「よろしいのですか? また、ライカさん達が死にそうになっても」
「その時にこそ限界を超えればいいだけだ」
「そうですか。であれば私が申し上げることはありませんね」
「ああ、今のままでいいのさ。今が最高に楽しくて、幸せだ。それでいいじゃないか。俺は強すぎる力は不幸にしかならないと思っている。違うか? お前はそんな奴を知っているのだろう」
「そうですね。確かにその通りですね。私も今が楽しいですからね。アル様を揶っていると飽きませんからね」
それは、なるべく控えてくれると助かるな。
「それは応相談という事で……」
だから、俺の心を読むなよ。
「そろそろ、備品が減ってきたから、街へ行ってみるか」
「行くー」
バルスが元気よく返事をした。こいつは街の飯を食べたいだけだろう。
全員で行ったらまたトラブルになるよな。
「行きたい人は手をあげて」
ビシッと。全員の手が上がる。だよな。もうずっと野宿だもんな。俺も宿のベッドで寝たいよ。仕方ない。全員で行くか。
おっ、街が見えてきたぞ。この街もなかなかの大きさだな。
「いいか。絶対に今回はトラブルを起こすなよ」
ライカとトウカに注意を促す。
「旦那様、私はトラブルなんて起こしてませんよ」
どの口がほざいてるんだ。走るトラブルメーカーが。
「師匠。私もそんなの起こした事ないでしょ」
トウカは確かに今のところはトラブルを起こしてないな。でも油断はできない。こいつはライカと同類だからな。脳筋どもは反射で手が出るからな。
「おお。結構、賑わっているな。祭りでもあるのかな」
「お祭り。私、行ってみたい」
「おいらも」
バルスはもう涎を垂らしている。食意地が張り過ぎだ。まだ、祭りかどうかも分かっていないのに。
通りすがりの人に聞いてみるか?
「なあ。ちょっといいかい?」
「何だい、兄ちゃん、あれ、貴方様。教祖様じゃないですか。おい、教祖様が来られているぞ」
な、何だ、何だ? 人が大量に集まってきたぞ。
「おお、本当だ。教祖様だ」
「教祖様よ。素敵だわ」
「神々しいお姿だ」
何なんだこの街は。俺の事を教祖様だなんて呼びやがって。俺はそんな高尚なもんじゃないぞ。誰と勘違いしてやがる。
「教祖様、ようこそ我が国にお越しくださいました。私はこの国を治めております、エギルと申します」
遂に偉い人まで、出てきたぞ。結構お年を召したご老人だが、しっかりと自分の足で歩いている。
「誰か別の人と間違えてないか? 俺は只の冒険者だぞ」
「何をおっしゃいますか。我々がアルバート様を見間違える訳ございません。本日の定期公演に参加されるために、お越しくださったんでしょう」
ん? 俺の名前はあっているな。定期公演って何だ?
「おい、レッド。お前、何しやがった」
「ひどい。アル様。私は何もしておりませんよ」
「嘘をつけ、こんな大事を計画するのはお前くらいのもんだ」
「言いがかりでございますね。今回は本当に私じゃありませんよ」
なんだと……。では一体何事だ。
「さあさあ、定期公演が始まります。一緒に参りましょう」
エギル老に連れられて、街の中心にある広場に訪れた。広場の真ん中には結構高い舞台が用意されている。その周りには凄い大量の人が集まっている。これから一体何が始まるんだ。
「ほら、アルバート様、始まりますぞ」
お、誰か舞台の上に上がってきたぞ。
「みんな~。お待たせ~。私の歌を聞け〜」
「「「「お~」」」」
おい、あの声はまさか……。
「うおーーー。ミリアちゃん、さいこー」
「ミリアちゃ~ん。こっち向いて~」
「ミ・リ・ア。ミ・リ・ア」
「みんな~、今日もミリアに会いに来てくれてありがとう~。僕はと〜ても嬉しいぞ♡ 今日も全力で歌うから、いっぱい楽しんでね♡」
「「「うおーーーー」」」
目がハートになった男どもの歓声が一際大きくなった。
マジか! 俺が国を出てお前に何があった。
そんなフリフリの服を着て、こんな大勢の前で歌えるような子じゃなかっただろ。本当にミリアなのか?
エギルの爺さんまで全力で応援している。死んでしまうぞ。そんなに動いたら。
一体何事なんだ。俺がトウカを育てている間に何があったんだ。
「おや、おや、そこにおられるのは我がお父様ではありませんか」
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