第52話 それからそれから

「トウカ、もう入れていいか」

「駄目」

「もう、我慢の限界だ。入れたい」

「仕方ない。どうなっても知らないわよ」

「よっしゃ。もう入れるぞ」


 ポチョン


「餌つけないと釣れないって言ってんのに。おっさん、アホなの」

 川に釣り糸を垂らす。

 今日は魚釣りというもの楽しんでいる。魚なんて手づかみで取るものだと思っていたが、魚釣りは食べるためにするものでもあるが、魚との格闘を楽しむ遊びという面もあるそうだ。

 トウカがしているのを見て、やってみたくなって代わってもらった。これがやってみたらめちゃくちゃ面白い。全然釣れないんだけど、全く飽きない。


「なあ、おっさん。全く釣れて無いよな」

「ああ、一匹も釣れて無いな」

「才能全く無いな。止めた方がいいよ」

 俺にそういうトウカの後ろには捌かれた魚が次々と焼かれていた。俺だって手掴みだったら、これくらい余裕で取れるわ。いいんだよ。釣れなくても楽しんでいるんだから。


 釣りはいい。なんせ、静かだ。全く騒がしくない。ずっと釣りをして生きていけないかな。

「それは無理でしょうね」

 出たな。怪物め。俺の心を読むんじゃない。

「心なんて読めませんよ」

 読んでるじゃないか。

「読んでませんよ。アル様は分かりやすく顔に出ているだけですよ」

 そんなに分かりやすいかな?

「ええ、分かりやすいですね」

「……」

「はいはい、消えればいいんですね」

 ドロンと消えてしまった。こいつは本当に何者なんだ。


「父ちゃん、父ちゃん。魚頂戴」

「すまん、釣れてない」

「えー。釣れて無いの。じゃあ仕方ない」

 バルスは手を川に突っ込んで、雷の魔法を使った。プカプカと浮かんでくる魚たち。俺が死闘を演じていたライバル達が魔王の一撃で死体になってしまった。残虐非道だ。

 浮かんできた魚を根こそぎ捕獲してバルスは去っていった。もうこの辺りには魚はいないだろう。


 虚しくなって魚釣りを止めた所で今度はサーシャに捕まってしまった。

「パパ、遊んで」

「いいぞ。何して遊ぶ」

「夫婦喧嘩ごっこ」

 もっと、子供らしい遊びにしないか。

「パパ、サーシャと喧嘩したくないから別の遊びにしないか」

「えー。じゃあ、騎士団壊滅ごっこ」

 この間のライカとトウカの戦いを見て、戦いに楽しみを見出してしまったか。やはりライカの子よな。せめて、真っ当な人格に育てなければならない。

「サーシャ、戦いごっこをするのはいい。だが、相手を滅ぼす様な真似は駄目だぞ。せめて半殺しで済ませないといけない」

「パパ、分かった。戦いのときは相手を半殺しにすれば良いんだね」

「そうだな。それぐらいで済ませてやる心意気が必要だ」

「よし、やろうか」

「うん。殺る」


 なかなかやりおるな。バルスがいないから紫電は使っていないのに、片手を使わないと防げない。この間までは全て躱すことが出来ていたのに、サーシャも成長しているという事か。

「サーシャ、なかなかやるな」

「パパもなかなかやるね」

 ちょっとだけ、ギアを上げるかな。

「わ、あ、待って、痛っ」

 ちょっとギアを上げると反応できなくなってきた。

「はい、ここまで」

「パパ、最後急に強くなった!」

「パパが全力で戦うのはお前たちを守るときだけだからな。普段は全力が出せないんだ。今のは全力のちょっと前くらいだぞ」

「パパ、すごい。ママよりも早い?」

「どうだろうな。ママと本気で戦うことはこの先無いだろうからわからないな」

「ママとは戦わないの?」

「そうだな。好きな人とは本気では戦えないな。もし戦わないといけないならパパは負けでいいよ」

「そうなの? 負けてもいいの?」

「負けてもいいんだよ。パパはこれまで何回も負けてきたからね。それでも今は幸せだ」

 人生長いんだ、負けたっていいんだよ。


「違う。負けたら駄目。負けたらそれで終わりよ」

 トウカが話に割り込んできた。

「トウカ。負けたっていいんだ。死にさえしなければやり直せる」

「違う。負けたらお終いよ。全部失われるんだから」

 そう言って去ってしまった。


「トウカ姉ちゃん、泣いてたね」

 そうだな。あいつ、過去に何があったんだろうな。

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