第50話 対騎士団

「お前たち、大人しくしろ。ヴォルフ氏殺害の罪で逮捕する」

 いや、ヴォルフ氏死んでないよ。死にかけてはいるけど。

 周りを見回すとざっと300人くらいの騎士さん達が取り囲んでいる。以前の俺だったら、捕まっておしまいだけど、今だったら、とんでもない強者でもいない限りは余裕で撃退できる人数だ。しかも、今は俺一人じゃないからな。周りには頼もしい味方がいっぱいいる。この程度であれば余裕で突破できるだろう。

「ライカ、バルスの姿が見えないが何処にいる」

「旦那様のピンチを感じたんで、置いてきました。まだ、露天で買い食いをしていますね」

 自分の子供を置き去りにするなよ。対してピンチじゃ無かったし。

「何で俺がピンチだって分かったんだ」

「そんなの決まってます。愛の力です」

 うーん。凄いね、愛の力。俺も皆を愛しているけど、ピンチだなんて感じた事無いんだけど……。俺の愛が小さすぎるのか? よし、もっと奥さんと子供と弟子を愛することにしよう。


「じゃあ、ライカはバルスを捕まえてから、俺に合流してくれ。他の皆はこの囲みを突破して外に出るぞ」

「アル様、この国を滅ぼさないんですか」

 レッドが恐ろしいことを提案してくる。する訳ないだろ。俺が当たり前のようにどこかの国を滅ぼしたことなんてあったか。

「するわけないだろ。俺は魔王か何かか」

「え、しないんですか」

 ライカよ。お前にはもう一発拳骨が必要かな。早くバルスを迎えに行けよ。

「えー。おっさん、逃げるの? あーし、逃げるの嫌なんだけど。逃げったって何も解決しないし。欲しいものは戦って勝ち取らないと手に入らないし」

 トウカよ。それはある意味間違ってはいないのだが、この場合、欲しいものも無いから、戦っても無意味なんだよ。戦うべき場所というものがあっただな。今はその時では無いと思うのだよ。

「パパ、悪者倒さないの?」

 サーシャも何で? って顔をしている。


「もう知らないからな。俺は手を出さないぞ。お前たちが勝手にやったことだからな」

「やった。あーしがやるかんね」

「いえ、私です」

「サーシャが殺るの」

 駄目だ。うちの女性陣は頭がおかしい。サーシャを抱っこする。

「サーシャは駄目です」

「えー、サーシャも殺りたい」

 絶対だめです。

「だーめ。サーシャじゃまだ勝てないから駄目だよ」

「ムー」

 サーシャがほっぺを膨らませて怒っている。そんなの可愛いだけだよ。サーシャ。


「では、トウカは右半分、私が左半分ということで」

「まあ、それでいいっしょ」

「お前たち、剣は禁止だからな」

 応戦モードに入った二人に一応釘を指しておく。何の抑止力にもならんけどな。鎧着てるから大丈夫だと信じたい。


「アル様、どうぞこちらへ。座って観戦いたしましょう」

 どこから出したのか、レッドが椅子を3脚とテーブル、お茶のセットを準備していた。

「おい、これ何処から出した」

「内緒です」

 くっ、また見逃してしまった。

「パパ、パパ。ポッケからヒュンって出してたよ」

 怒りを発散するために俺の髪をくしゃくしゃにしていたサーシャが教えてくれた。

「ああ、サーシャ様、教えたら駄目ですよ」

 タネをバラされたレッドががっくりしている。どうやら、サーシャはレッドにとって天敵の様だな。



「お前たち、大人しくしろと言っているのが聞こえんのか」

 騎士団の人がついに怒ってしまった。ごめんなさい。でも、そんなに油断していていいんですか? 猛獣が二匹牙を剥いてますよ。


「早く倒したほうが勝ちね」

「ラクショーっしょ」


「はい。終わり。私の勝ちのようね。トウカ」

「ぐぬぬ。一歩及ばなかったか。ライカは早すぎなのよ」

 今の所はまだ、ライカに分があるようだ。

 哀れ、騎士団の皆さん。あっと言う間にボコボコにされてしまった。治療してあげたくても、今はできる人連れてきてないんです。ごめんなさい。


「満足したか? 満足したら、バルス回収してもう行くぞ」

「はい。体を動かしたらスッキリしました。準備運動にもならなかったので、この後、トウカと模擬戦でもしようと思います」

「いいね、それ。そっちじゃ負けないかんね」


 ライカにバルスの所まで案内してもらったら、ずっと食べてたのか、食べ物の残骸が山になっていた。

「バルス、これどうしたんだ」

「父ちゃん! いつ来たの! 何かお店の人が急に皆いなくなったの。でもお腹すいてたから食べたの」

 どれくらい食べたのだろうか? ゴミの量の数倍は食べているはず。3歳にして恐ろしい食いっぷりだ。セツナはこいつの食事をどうしていたのだろうか。

「そろそろ、出発するぞ。もう食べなくて大丈夫だろ?」

「うん。大丈夫」


 この街でのトラブルは大した事なくて助かった。本当は宿に泊まってゆっくりしたかったんだが騎士団を潰してしまった以上、仕方がないな。また暫くは野宿生活だな。


 さて行くか。



「おい、魔王は行ったか」

「はい。どうやら街を出ていったようです」

「くそ、我が国を荒らすだけ荒らして出て行きやがった。おい、冒険者ギルドを使って、全人類に奴の悪行を伝えるんだ。決して許してはおけん」

「は。承知いたしました」

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