第48話 初めての街
「おー、これが異世界の街並み。んー微妙。人、少ないし、あんまりきれいじゃない」
トウカが初めての街に来た感想を述べている。結構大きな街なのだが、異世界とはどれほどなのだろうか。アルノーグルと比べると確かに小さな街だが、あれはレイ君の作る街がおかしいだけだから、至って普通の街だと思うのだがな。
「パパ、小さい街だね」
アルノーグルしか知らないサーシャ達から見ても小さい街扱いとは……。
その、サーシャの頭の上では透明のスライムがぽよぽよと揺れている。透明だから、じっとみないと分からない。サーシャ曰く、頭の上に置いとくと冷たくて気持ちいいらしい。俺が掴もうとすると逃げてしまうので、俺は体感できてない。悲しい。
あれから2週間ほど森を歩いて抜けると、大きな街が見えてきた。獣人にも国を作る種族がいたのかと喜んで街に入ってみると、人間の国だった。いつの間にか国境を超えていたらしい。グランスバルト王国とは獣人の国を挟んで反対側の方向にあるため、訪れた事のない国だった。
ライカとバルスには、旅の必要品の買い出しを頼んだので、別行動中だ。ライカの鼻があれば、いつでも合流は可能だろう。
レッドはいつの間にか消えた。また何かあれば現れるだろう。考えるだけ無駄だ。
「まずは宿を抑える為に冒険者ギルドへ行こう」
「冒険者ギルド! 冒険者っているんだ。ますますラノベっぽいね」
「トウカ、お前はその話し方の方が似合っているぞ。十分に強いんだから、無理に強がる必要はないぞ」
「強がってなんかねーし。あーしはこっちが素だし」
素直じゃないな。ホントに。
ギルドに向かいながら、トウカの質問に答えてやる。
「俺もライカも冒険者だぞ。ライカは最上級のS級だぞ」
「S級! ライカ、あんた凄い奴だったんだね。冒険者の頂点なんだね」
トウカは冒険者に思い入れでもあるのであろうか。やけにテンションが高い。
「それなら、おっさんは何級なんだ」
「あ、ああ。俺はB級だ。普通だろ。俺は弱いからな」
俺自身はB級で納得しているしな。強さはS級かもしれないが、一人で料理はできないし、手加減が出来ず相手を殺してしまう事がある。これではS級になんてなれない――いや、待てよ。ライカだってどっちもできないぞ。あれ、俺、S級でも良くね。
「へー、おっさんはB級か。それくらいなら、あーしでも直ぐに成れそうだな」
実際に直ぐに成れると思うぞ。試験員をタコ殴りにでもすればC級スタートだからな。ライカ達の時はまだ小さかったから経験を積ませるためにF級からスタートさせたが、トウカだったらC級からでも大丈夫だろう。
「トウカも登録するか?」
「いいの?」
「ああ、いいぞ」
「サーシャも登録する」「おいらも」
残念だったな、登録できるのは12歳からだ。
「サーシャとバルスはもう少し大人になってからな。3歳じゃ登録できないんだよ」
「えー、トウカ姉ちゃんだけずるい」
「へっへ。あーしはお子様じゃないからね。立派なレディだから仕方ないし」
3歳児と張り合っている子は立派なレディではないな。
「ほら、着いたぞ。ここだ」
そうこうしていると、ギルドへ到着した。あー。嫌な予感しかしない。
「トウカ、大人しくしてるんだぞ。絶対に絡まれるけど、手を出すんじゃないぞ」
「おっさん、何言ってんの。絡まれたら殴るしかないっしょ」
これだよ。ライカが二人になったみたいだ。入りたくないな。でも登録はしておきたいしな。覚悟を決めるしかないな。
覚悟を決めて、ギルドの扉を開け、中へ入る。
俺達が入ると、ざわついていたギルドが静まりかえった。やっぱり注目されているな。トウカは性格はともかく美少女だからな。性格はともかくな。これは絡んでくる奴がでてくる前兆だな。大体どこのギルドでも一緒だから慣れたな。さあ、来るがいい。俺が華麗に手加減して叩きのめしてやろう。
あれ、誰も来ないな。
「おい、あれは奴だよな」
「たぶんな、近づいたらやばいぞ」
「あいつ、生きていたのか」
「「「変態アルバート」」」
異名が何か短くなってるし、悪い方に変わってる。俺、ここのギルドに来たこと無いのに何で皆知ってんの。
「私の布教の成果ですね。アル様の事がこうも知れ渡っているとは。稼いだお金をつぎ込んだ成果が見られてよかったです」
やっぱり現れたな。
「お前、何してくれてんの」
「私は主の事を皆に知っていただきたく本当のことを広めただけですよ。子供を拾ってきて、育てて嫁にして、毎晩楽しんでいると……」
俺の左拳がこれまでの最速を遙かに超える速度で繰り出された――があっさりと躱された。
「前にも言いましたが、殺気がこもっている拳では私には当てられませんよ。無心で殴ってくださいね」
くそ、こいつ、殴りてぇ。
「てい」
「ぎゃあ――ゆ、だん、しま、した。ガクっ」
「やったー。レッドおじさん。倒した」
急所に一撃をくらったレッドが崩れ落ちた。油断したレッドをサーシャの一撃が急所に的中した。サーシャの無心の勝利だな。レッドよ安らかに眠れ。
「おっさんって、やっぱり変態だったんだな」
「それは、風評被害だ。事実だが、意図した事ではない。結果として妻になっただけだ」
「事実なんじゃん。まさか、あーしの事も狙ってるんじゃ」
狙ってません。俺は4人で既にお腹いっぱいです。
「妻はあれだけど、一晩くらいならいいよ。興味あるし」
「処女が何を――ぐはっ」
簡単に手を出すんじゃないよ。腹が破れるかと思ったぞ。危うくリバースする所だった。
「(ボソ)興味があるのはホントだし」
「いたたた。ほら、早く登録に行くぞ」
殴られた腹をさすりながら、受付のところへ。
「俺の弟子を登録したいんだが、いいか」
「あ、あの、アルバート様でお間違いないでしょうか」
「そうだ。このトウカの冒険者登録を頼む」
「は、はい、少々お待ちください」
受付をしてくれた女性が走り去って行った。サーシャと比べても遜色ない動きだった。そんなに急がないでもいいんだけど。
「アルバート様、お待たせいたしました。こちらがトウカ様の冒険者証となります
」
渡されたのは、銀色の冒険者証。
「なあ、これB級の冒険者証じゃないか?」
「す、すみません。当ギルドではこれが与えられる最高の等級でして、どうか、どうかこれでご勘弁ください。これ以上は無理なんです」
あれ? 最初はどんなに頑張ってもC級じゃなかったか? 俺、あっさりとトウカに追いつかれたんだけど。
俺、どんだけ恐れられてるんだ。何かした覚えなんて無いんだけど。まあ、得したらいいか。
「なあ、ちょっといいか?」
「ひー。いや。止めてください。私、彼氏がいるんです。勘弁してください」
受付のお姉さんが錯乱し始めた。質問があったから声かけただけなのに。
「おい、ギルドで不逞を働いている輩とはお前のことか」
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