第47話 温泉

「旦那様、いい湯ですね」

「そうだな。熱さが丁度いいな」

 バルスが臭いと言っていたのは、この温泉の臭いだった。確かに臭いな。独特の臭いがする。

 まずは温度をチェックしてみたが、煮えたぎる様な熱さではなく、人肌よりも少し熱い位の丁度良い湯加減だった。

 バルトとサーシャがまず飛び込んで泳ぎ始めた。

 次は俺とライカだった。慣れたもので、俺の服を手早く脱がしてくれる。風呂と言えばライカ。これは我が家では定番になっている。

 

「おっさん達、頭おかしいんじゃないの。レディの前で丸出しにしないでよね……」

「お前も初めて会った時、スッポンポンだったじゃねえか。今さらだろ」

「そうです。私は見られて恥ずかしい体はしていません」

「こいつは単なる裸族だから気にするな」

「トウカは無理に入ることはないから、レッドと待っていればいいぞ」

 俺達は家族風呂を楽しませて貰うから。

「あーしだって、別に恥ずかしくなんてねーし。いくらでも見ればいいし」

 そういって、トウカも脱いでしまった。恥ずかしくて、顔を赤らめるくらいなら止めとけばいいのに、どうして脱ぐかな。早く湯に浸かりなさい。そうすれば見えなくなるから。

 

「ふぇ〜。温泉気持ち~」

 トウカが温泉に浸かり、リラックスしている。俺達とはかなり離れた所で一人で寛いでいる。

 レッドはいない。また何処かで覗いているのだろう。あいつは覗き魔だからな。覗きを楽しんでいるのではなくて、覗かれて嫌がっている俺を見て楽しんでやがるから始末が悪い。そして、殴ってやろうと思っても、いつも見つけられないのだ。


 バルスとサーシャは既に温泉から上がって、素っ裸でその辺で遊んでいる。危険があれば、レッドが排除するだろう。

 俺はと言うと湯の中で俺のアレを触ろうとするライカの手を払うので忙しい。こんな所で止めろ。オープンなのにも限度があるだろ。只でさえ、目の前に浮かぶそれを見ない様にしているんだからな。4日も何もしてないんだから、爆発したらどうしてくれるんだ。

 

「ひやぁ」

 ライカと湯の下で格闘をしているとトウカが叫び声をあげた。

「おっさん、今、あーしのお尻さわったでしょ」

「こんなに離れてるのに触れるか」

「いーや、おっさんだったらこんな距離一瞬で移動できるっしょ」

 移動はできても湯も一緒に撒き散らすから、気づかれずに何て無理だし。

「トウカの尻を触ってもなあ。なあライカ」

「そうですよトウカ。旦那様はおっぱい派ですよ。尻に興味はないです」

 そうだぞ。尻よりもおっぱ――じゃないよ。そういう事じゃないのよ。それよりも立ち上がったらまた丸見えだけどいいのか。

「ひゃあ、また触った」

 いや、俺はここに居るし。

「湯の中に何かいるな」

「ひやぁ。また。だめ。そんなところ。ダメだって」

 俺達も風呂の中にいるのにトウカだけが襲われている。しかも卑猥な感じで。

「おっさん、何をのんびりしてるの。助けてよ。ひやぁ」

 と言ってもだな。命の危険は無さそうだしな。俺の方には来ないし。

「俺がそっちに行ってもいいのか。いろいろ見えちゃうぞ」

「見てもいいから、これを何とかして。いや、そこは駄目だってば」

 どうやら限界らしいな。助けてやるか。

「ここか!」

 湯の中に手を突っ込み、何かがいそうな場所を掴む。プニプニの透明なスライムを掴みあげた。これは?

「これはユニコーンスライムですね」

 出たな、レッド。来ると思っていたぞ。

「このスライムは処女の女性に懐く特性を持っていまして、どうやらトウカ様は未開つ――」

 ぐはっ。

 トウカの拳がレッドへ突き刺さる瞬間、レッドが躱したため、俺の腹に突き刺さった。

「な、なに、しや、がる」

「おっさん、ごめん。おっさんを殴るつもりじゃなくて……」

「わ、分かってる。俺はレッドに言ったつもりだ。それよりも服を着てくれ」


 トウカに殴られつつも、スライムからは手を離さなかった。先ほどからプルプル揺れているのは、どうやら怯えているらしい。


「おっさん、さっきのエロスライムは何処にいった。ぶっ殺してやる」

 服を着たトウカが勢い勇んで言う。スライムの震えが大きくなった気がする。

「トウカ姉ちゃん、このスライムさん殺しちゃうの? 振るえてて可哀そうだよ」

 サーシャが優しさをみせているだと。まだライカ色に染まっていなかったか。まだ間に合う。そうだ、生き物を育てるのは教育に良いと聞く。

「だったら、このスライムをサーシャが育ててみるか」

「いいの!」

「ああ、いいぞ。でも生き物を育てるのは責任を生じるんだぞ。こいつが悪さをしたら、父さんはサーシャを叱るからな。いいな」

「いい。スラちゃんには悪ささせないもん。パパもトウカが悪さしたら、サーシャが叱るからね」

 おっと、上手い返しだな。確かに弟子が悪さをしたら師匠は責任を取らんとな。

「わかった。トウカが悪さをしたら、父さんを怒ってくれ」

「何であーしが悪さする前提なんだよ」


 そうだな、今のところは普通の子だ。子供たちの面倒も見てくれるし、修行も真面目に取り組むし、料理も上手だ。そう、なんとトウカは料理上手だった。なんとも予想外だった。この面子、誰も料理できなかったからな。貴重な人材が手に入った。

 でもな、今はいい子でもな、気がついたらトンデモナイ存在になっていることがあるんだよ。実例が目の前にいるからな。俺は油断しないぞ。


「トウカ、悪さはするなよ」

「だから、しねーって」

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