第46話 トウカ
「なあなあ、トウカ姉ちゃん。どうやったら姉ちゃんみたいに強くなれる?」
バルスがトウカにおぶさりながら、質問している。随分と懐かれたものだ。
「バルス、修行にならないから降りて、自分の足で歩きなさい」
ライカがバルスを注意する。
「へへん、自分の息子を取られて悔しがってやんの」
「ふん。違います。バルスの為に言っているのです。サーシャは真面目に歩いていますよ。差がついてもいいんですか。強くなりたいんでしょ」
「母ちゃん、もう、森は飽きたよ」
最近の子は辛抱が足りないな。たかが1週間森の中を歩いているくらいで。ミリアの故郷の森に比べたらここは、天国じゃないか。
「おいら、セツナ母ちゃんのオムライスが食べたい」
「お、俺もそれは食べたいけど、あれはあの国じゃないと食べられないから、バルスはもう帰るか?」
「う、帰らない。我慢する」
「偉いぞ。バルス」
バルスの頭を撫でてあげる。
「バルスだけずるーい。パパ、サーシャも」
「はいはい。サーシャもずっと歩いて偉いぞ」
サーシャのしっぽがわさわさと揺れる。
俺の前に金色の頭がずいっと突き出されてきた。
「ライカ、お前まで何だ」
子供か。お前はもう20代だろうが。
「最近、撫でてもらってません」
仕様がない奴だ。わしゃわしゃと撫でてやる。これが好きなのは相変わらずか。
ん。ふと、寂しそうにしているトウカが目に入ってしまった。仕方のない奴がもう一人いたか。
トウカの後ろに気配を消して素早く回りこみ、やさしく頭を撫でてやる。
「なにすんだし、おっさん。セクハラ」
怒るんなら、ニヤつきながら怒るものじゃないぞ。
「セクハラが何なのか分からんが、頑張っている弟子は褒める主義でな。お前もよく頑張っているぞ。よしよし」
「あーしは、弟子じゃないし」
「まあまあ、細かい事はいいじゃないか。俺に褒めさせろ」
いかんいかん。余りトウカを構いすぎると奥様がお怒りになるからな。ほどほどにしておかねば。
なぜ、トウカが旅に同行しているかと言うと、あの後、ボロボロになった二人が肩を組んで、仲良く帰ってきたからだ。なんだか、殴りあって友情が芽生えたらしい。脳筋の人たちの考え方は頭脳派の俺にはよく分からん。
だが、ライカと引き分けるトウカの強さに、俺はわくわくしてしまった。こいつを鍛えてみたいと。
トウカに話を聞くと、こちらの世界に来るまで戦いなどしたことが無いらしい。そのせいか、もの凄く強いのに動きは素人と変わらない。なんて勿体ない。鍛えればどれだけ強くなるのか。俺の師匠欲求が爆発してしまったのだ。
そんな理由で、半強制的に同行させる事にしたが、トウカもこちらに来てずっと一人で寂しかったのだろう、嫌々っぽいことは言っていたが、何だかんだでついて来ている。
毎朝の稽古で、トウカに教えていて驚いた。俺の教えることをすいすいと吸収していく。それを見て、サーシャとバルスの動きも良くなっていく。二人にとってもいい見本になっている様だ。
それにしても勇者というものは凄いな。こんな成長速度で強くなったら、いずれトウカには勝てなくなるな。
ライカもトウカをライバル視して、修行に意欲的になっている。これは全体に良い効果が生まれているな。
俺も皆に負けない様に修行しないといけない。特にライカのアレには苦労させられるからな。俺も何かオリジナル技を開発しないといけないな。
「アル様、私をお忘れではないですか?」
「おーそうだった。レッドも――じゃねえよ。やだよ。何か悲しくておっさんを褒めんといかんのだ」
「うーん。残念ですね。まあ、アル様に褒められても私も嬉しくないですね」
だったら急に出てくるなよ。大人しく虫と格闘していろ。
「ねえねえ、おっさん」
「トウカよ、おっさんは止めよう。師匠と呼びたまえ」
「わかった。それでおっさん。質問があるんだけど……」
分かってねえじゃねえか。
「何だ?」
「おっさんって、人間じゃないよね」
「そうだな。俺は鬼神族っていう種族らしいぞ。俺以外誰も見た事ないから、本当かどうか分からんけどな」
生まれた子供にも一人も鬼神族っぽいのは生まれなかった。見事に母親似の子供ばかりだ。11人全てとなると、何か理由がありそうな気がする。
「おっさんも一人ってことだね。一人で辛くない」
そうか、トウカもこの世界では一人ぼっちの異世界人になるのか。
「俺は皆が居たからな、トウカは辛いのか」
「あーしが辛い訳ないっしょ。あーしはどんな事があっても大丈夫だし。辛いなんて思ってないし……」
だんだんと語尾が弱くなっているぞ。辛いんだな。
「周りをよく見てみろ。今のお前は一人じゃないぞ。俺達がいるだろう。お前が一人前になるまでは面倒を見てやるから安心しろ。そして、俺よりも強くなって、俺を倒して見せてくれ」
「旦那様、それは私の役目です」
ライカが割り込んでくる。話がややこしくなるから。
「違うよ。おいらだよ」
「私、わたしがパパを倒すの」
急に賑やかになってトウカに笑顔が戻った。よかった、よかった。
トウカはどうやれば、故郷に戻れるんだろうな。それを探す旅でもいいかもしれん。目的のある旅じゃないからな。
「父ちゃん、あっちがすごい臭い」
バルスが進行方向の山の方を指す。
では、あっちに行ってみるかな。旅は面白そうな方へ行く方がいいからな。
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