第44話 君の名は

「キャーーーーー」


 俺は叫んでしまった。不味いぞ、裸の女の子を抱く不審者だ。完全に不味い。


「ちょっと、おっさん、叫びたいのはあーしの方なんだけど……」

 おっさん……。ショック。確かにもう40だけど、見た目は30の頃から何も変わっていないのに。体の作りが変わったから若返っているくらいなのに。


「おっさん。おしり触ってるだけど。手、どけてくんない」

 お、おお。ごめん。

 慌てて手を放したので、少女は地面に落ちてしまった。

「何すんのよ。いたたた。お尻打ったじゃん。見てよ、あざになったらどうすんのよ」

 少女はかわいいお尻をみせてくる。触るのはダメだけど、丸見えなのはいいのか?


「あれ、なんであーし、裸なの。おっさん、あーしに如何わしいことしようとしたっしょ」

「してないわ。面倒ごとになりそうだから捨てに行こうとした所だ――あっ」

「おっさん、今、捨てるってい言った? 言ったよね」

「言ってないよ」

 しょうもない嘘を吐く。

「違うよ、お姉ちゃん。パパは元の場所に戻して逃げようとしていただけだよ」

 おう。素直な所が仇に。

「おっさん、いい度胸してんね」

 少女が詰め寄ってくる。どうでもいいけど君たち二人とも裸だからね。早く服着てくれないかな。虫に刺されるよ。


「そっか、サーシャちゃんが溺れているあーしを助けてくれたんだね」

 あれから、水浴びをしていた場所に行くと二人の衣服が落ちていたので、着替えてもらった。

 サーシャが彼女の膝の上でご機嫌に揺れながら髪をといて貰っていた。

「へえ、獣人って本当に耳がついてるんだね」

 少女が不思議そうにサーシャの耳を触っていた。サーシャはくすぐったいのか身をよじらせている。

 バルスはずっと骨をしゃぶっている。こいつは放っておいていいな。


「獣人を見たこと無いのか?」

「あーしの世界にはいなかったからね」

「世界? 世界って何だ? 国とは違うのか?」

「説明が難しい。あーし、馬鹿だからあんま上手く言えないけど、こことは全く違う別の場所。歩いては絶対に行くことができない場所って感じ」

「それは、魔法でもいけないのか?」

「へー。この世界は魔法もあんだ。あーしも使えるかな」

 少女は手をかざして、いでよ炎とか言っている。そんなので出るわけ無いわな。

「あっ、出た」

 うそん。何で?

「魔法でた。やった」

「おい、どうやったんだ。それ。普通はそんなやり方で炎は出ない」

 もしかしたら、俺もまた魔法が使えるかもしれない。

「えっと、こうぎゅっとして、ボワって感じで、えいってしたら出るっしょ」

 ガクッ。なんにも分からん。

 ええい。魔法はこの際、今はいい。


「それで、その別の世界だっけか、にいたお前がどうしてこんな森の中にいたんだ」

「気がついたら、森の中で寝てた。あーし、友達と遊んでてカラオケで歌ってたんだけど、いつの間にかここにいたって感じ」

「ふむふむ。どうやら彼女は異世界から召還された勇者様の様ですね」

 レ、レッド。お前いつの間に。

「ふふふ。アル様、来ちゃった」

 俺が驚いているとレッドが返して来た。来ちゃったじゃねえよ。ワイズとやることが一緒なんだよ。

「あれ、このお兄さん何処から来たし」

 なんで、俺はおっさんで、レッドはお兄さんなんだよ。見た目あんまり変わらないだろ。

「レッド、お前が何でいるのかはともかく、勇者って何だ」

「アル様、最近ツッコミが緩いですよ。ボケてるんですから、しっかりとツッコんでくれないと。勇者ですけど、勇者は魔王倒すために異世界から呼び出される者の総称です。その力は無限大で、何処までも強くなりま――なると言われています」

 ふーん。勇者にも知り合いありということだな。お前の事は分かってきたぞ。

「お兄さん、頭いいんだね。顔もいいし。あーしと付き合わない」

「ふむ。付き合うというのは、具体的にはどんな事をする事なのですか」

「うーんと。デートしたり、ご飯食べたり、セックスしたりするもんしょ」

「デートとセックスいう言葉の意味が分からんな」

「デートは一緒に買い物とか旅行とかに行くことで、セックスは子作りする行為の事ですよ。アル様」

 こいつは何でそんな事を知ってるんだ。

「知り合いの異世界人が言ってたんです。『デートしたい。セックスしたい』って」

 こいつは異世界人に知り合いがいるとか。何でもありだな。待てよ、異世界って言葉をどこかで聞いた様な――駄目だ思い出せん。ここ10年以内には聞いているはずなんだが……。


「お嬢様、すみません。私は、視姦派なんでお付き合いはご遠慮させて頂きます。セックスなら私よりアル様の方がお上手ですよ」

 レッド、子供の前で卑猥なことを言うな。

「アル様は奥様4人を毎日代わる代わるヒーヒー言わせてますからね」

 違う。俺が言わされてんだよ。

「へー、見かけに依らず性欲強い方なんだ。だからさっきもあーしのお尻掴んでたんだ。やっぱり如何わしいこ――」

「そんな事、微塵も考えてないぞ」

「またまた、おっぱいガン見してたっしょ」

 ば、バレてる。

「ちょっとだけ、あーしと遊んでみない、おっさん」

 少女がにじりよってくる。不味いぞ。あの子の手元にはサーシャがいる。逃げ出すことができない。

「まて、その話の前に聞いておく事がある」

「なに。おっさん。スリーサイズかな。上から88、6――」


「えーと、君の名は?」

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