第31話 死闘の始まり

 今日はミリアを自分の力で走らせている。

 昨日十分に距離を稼いだので、ゆっくり走っても今日中には森を抜けることができる。

 ミリアも偶には走らせないと、あの巨猿みたいに動きが緩慢になってしまってはいけない。

 あんな巨体になられても困るが、たぶんこの森の生物を見ていると全てが巨大なので、この環境が成長に影響を与えているのだろう。

 ミリアが巨猿にならないことを祈るしかない。もう縦への成長は止まったらしいので、一安心だ。後は横への成長をさせないだけだ。適度な運動をとらせる様に指導しよう。


 レッドも飄々とついてきている。既に虫嫌いも克服したようだ。ウザがらみして来ない事を祈るのみだ。

 3人共に暗い森をものともしていない。レッドは理由を明かさないが、魔道具の類であろうか? 特に怪しい動きや装飾品はしていないのだが。謎だ。


 半日ほど、走りぬいて森を走破できた。今回はミリアも倒れる(途中で寝る)ことなく、最後まで走りぬいた。

 普段よりも頑張ったので褒めると存外に喜んでいた。まだまだ子供である。


 無事、アイシャ達とも合流できた。こちらは何事もなく、昨日のうちに馬車に着いたらしい。着いたときセツナの作った料理をおいしそうに食べていた。

 朝にどうやって準備したのか、レッドの提供してくれたパンを食べてから、その後は何も食べていなかったので、俺達も一緒にいただいた。

 約30日に渡る巨大な森の中でのミリアの故郷探しは終わった訳だが、碌に休んでいなかった俺は、そのまま寝付いてしまったのだ。


 猛獣たちの檻の中で……。

 

 はっ。よかった。無事――――ではないな。

 俺は無事だが、セツナとミリアがボロボロになって倒れている。俺が寝ている間に何があった?


「アイシャ、起きろ。大変だ。二人がやられてる」

 俺の隣で寝ていたアイシャに声をかける。

「おはよう、アル。あれは大丈夫よ。ちょっと姉妹喧嘩してただけだから」


 ちょっと喧嘩したレベルじゃないくらいボロボロだけど、大丈夫なのか。この中じゃセツナしか回復魔法使えないんだけど、その本人がやられてる訳だけど。


「昨日アルが寝た後、大変だったのよ」

「何があったんだ?」

「アルとミリアちゃんが無事、初夜を過ごしたって話になってね。それで――」

「待て、俺はミリアとそういう事はしてないぞ」

「え、そうなの。裸で抱き合って寝たってミリアちゃん言ってたけど……。それでセツナちゃんがズルいって怒って、喧嘩が始まったの」

 そうだな。間違ってはいないな。でも真実とも違うぞ。

「い、いや、確かにミリアは裸だったけど、あいつが勝手に脱いでただけで、俺は脱いでないから。何もしてないからな。信じてくれ」


 アイシャに変な誤解をされてはたまらないので、必死に弁明する。


「こら、アル。女の子がそこまでしてるのに、なんで何もしてないのよ。ちゃんとしなさい。皆の旦那さんでしょ」 

 えー、怒られるの俺なの? 俺が間違ってるのか? 

 いかん、訳が分からなくなってきた。

「アイシャはそれでいいのか。俺が他の女性とその、そういった関係を持っても……」

「それは……。誰でもいいってわけじゃないのよ。でも、彼女たちは別よ。貴方をずっと支えてくれてるもの。ずっと見ていたから分かるわ。そして、貴方も彼女たちを大切に思ってる。それも分かってるのよ」


 俺の奥様は全てを見通す目をお持ちの様だ。俺の事も、あいつ等の事も。


「でもね。私の事も大切にしてよね」

「それは大丈夫だ。俺の最優先事項だ」

 いい雰囲気なので、このまま始めてしまおう。森に入ってからしてないからな。


「アル、するのはいいんだけど、レッドとレイ君が見てるよ……」

 アイシャの服を脱がそうとしていた手が止まる。


「アル様、お構いなく。我々は大人しくしておりますので……」 

「だぁ!」


 気にするわ。出来る訳ないだろ。

 レッドはいつものこととして、レイ君はおかしい。レッドに抱かれて、うれしそうにこちらを見ながグーにした拳を前に突出し、親指を立てている。何の合図だか分からないが、何かを期待されている感がする。


「さて、あいつ等の手当てをしてやらんとな」

 いそいそと立ち上がり、倒れているセツナ達の方へ向かう。

 二人はがっくりと残念そうにしていたが、何を期待しているのか。

 俺はそこまでオープンではないぞ。


「おーい、セツナ。大丈夫か」

 セツナの頬をピシピシしながら、声をかける。

「し、師匠。あの子、強くなってるわ。私をここまで追い詰めるなんて。私こそが第2夫人に……」

 それだけ言って、再度気を失ってしまった。以前は完封してしたミリアに追い詰められた様だな。ミリアも倒れているから辛くも引き分けという所か。

 ミリアは隠れて修行してたからな。よっぽどあの日の事が悔しかったらしい。


「ミリア、大丈夫か」

「師匠、第2夫人の座は死守した」

 こちらも一言だけ言って寝てしまった。

 

 うーん。カオスすぎる。これでライカが帰ってきたらどうなるのか。あいつが入ると迷惑度が跳ね上がる。恐ろしすぎる。


 取りあえず、馬車でも引いて忘れることにしよう。

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