第30話 初夜
この巨大な森を再び帰るのは流石に堪えるので、最終手段に出ることにした。
セツナにレイ君とアイシャを連れて飛んでもらい、俺はミリアを背負って、森を全力で走り抜けることにした。
えっ、レッドはどうしたかって? 男は自分で何とかしろ。
あいつは謎の能力を隠しているから大丈夫だろう。
「ミリア、結構な速度で走ってるけど平気か?」
「ん。師匠の背中は大きいから大丈夫。とても快適」
「じゃあ、もう少し本気を出しても大丈夫か」
「余裕」
一応地面を走っていたのだが、木を避けるのが面倒になったので、少し本気を出して、木を蹴りながらジグザグに進んでみた。
これはやってみると楽しい。枝から枝に飛んでみたり、幹を蹴って、方向転換してみたり、いかにして早く駆け抜けるかを計算しながら走っている。
自分の体がどんどんと最適化されていくのを感じる。そして、真っ暗の森なのに全体が分かる。というよりも感じる。何処に何があるのかが、何処を蹴れば早く駆け抜けれるのか。全てが分かる。周りの時間が止まった様に感じている。
この2年間で自分の体を使いこなせる様になったと思っていたが、まだ成長している様だ。何処まで強くなれるのか。
そして何故、父さんはこの力を封印したのか。わざわざ弱くなる必要がある程の何かが怖くなる。
そう考えた瞬間、正気に戻った。不味い、背中のミリアの事を忘れていた。
しっぽを腰に巻きつけて、必死で俺を掴んで落ちるのを耐えていた。
「すまん。自分の力に溺れてしまった」
背中からミリアを下ろすと、すこし涙目になっていた。
「ミリア、悪かった。怖かったか」
「ん」
俺に抱きついてきた。
「怖かった。落ちたら師匠に置いていかれそうで」
俺がそんな事をする訳が無いのだが、あのときの俺は正気じゃ無かった。
ミリアは敏感だから、その辺りのことに気がついていたのかもしれない。
「今日はここまでにしよう」
大分距離は稼いだし、ゆっくり走っても明日には抜けられるだろう。ミリアは俺に抱き着いたまま眠ってしまった。
外敵も多い森の中だ、今日も徹夜だな。ミリアを抱いたまま。木の幹に寄りかかり腰を落とす。
それにしても、さっきは危なかった。ついつい自分の力に酔いしれてしまっていた。こんな事ではいけない。こいつ等の師として不甲斐ない姿は見せられない。こいつ等には負けられないからな。
それにしても、こいつを抱いていると暖かくていいな。
「師匠。起きて」
ん。俺は寝ていたのか? こんな森の中で?
何だ。周りを土が覆っている。ミリアがやったのか。
「これはミリアがやったのか?」
「ん」
「これは、安全でいいな」
「そう。これから初夜。邪魔が入ると困る」
な、な、なんて事を言い出すんだ。こいつは。
「ん、師匠、早く脱いで」
暗くて見えなかったが、こいつ服を着てない!
「おい、止めろ。ミリア」
ミリアが俺の服を脱がそうとしてくる。
俺はミリアを抱きしめた。
「ミリア、無理をするな。まだそんな事をしなくていいんだ」
「でも、子を産むのが妻の務め」
そんなに震えて何を言ってるんだ。怖いんだろ。無理をする必要はない。
「そんな務めは無い。子はレイ君がいるからいいんだ。こんな事は無理にする必要はない」
「でも……」
「ミリアはいつものままでいい。もう一度言う。無理をするな」
「ん。分かった」
そういって、俺に抱き着いてきて、何時もの様に眠るのかと思ったらキスをされた。
「今はこれで満足。続きはまた今度」
それだけ言って寝てしまった。
おい、服を着てから寝ろ。風邪をひくぞ。
この状況をどうしろと……。
「ミリア、そろそろ起きろ。出発するぞ」
あれから、何時間たったのか? 分からないけどもう十分だろう。
「師匠、おはよ。寝てる間にいたずらした?」
「してません」
「してもいいのに」
ミリアもセツナに毒されてきたな。
「いいから、出発するから服を着て、これを解除してくれ」
「アル様、昨晩はお楽しみでしたね」
レッド、何故ここに居る。そして、いつから居た。
ミリアが土の壁を解除すると、外にはレッドが控えていた。かなりの距離を俺は全力で移動したはずだ。何故追いついている。
「私を撒いて、お楽しみなんて許しませんよ。私はこれしか楽しみが無いんですから、逃すわけにはいきません。全力で追いつかせて頂きました」
そんな事に本気を出すな。
「『無理するな』恰好よかったですよ。帰ったら奥様に報告せねば」
「やめろ。お前を殺らねばならなくなる」
「では、今回は内緒と言う事で……」
その手は何だ。手を握ってやる。
「ほらよ。俺からの握手だ。ありがたいだろ」
「奥様へご報告ということで……」
待ってくれ。ほんの冗談だろうが……。
「ほら、これでいいか」
「ありがとうございます。これで、アル様の異名を更に広めることができます」
あの変な異名を広めるのは止めてくれないかな。
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